Slawek Jaskulke「Music on canvas」(CORE PORT)

“ショパンの国”ポーランドのピアニスト/作曲家、Sławek Jaskułke(スワヴェク・ヤスクウケ)の名前をよく目に耳にするようになって来ている。ポーリッシュ・ジャズと呼ばれたりもするが、彼の音楽はジャズと言うカテゴリーを超えて、もっと多く聴かれるべき魅力を秘めている。レーベルサイトによると、ハービー・ハンコック、マッコイ・タイナー、バルトーク、ヒンデミット、ラフマニノフ他に影響を受けているが、ヒップホップやエレクトロニカ、ポストロック等からも影響を受け、ポーランドの若者に大人気だったパンク・ジャズ・ユニット「ピンク・フロイト」にも活動の初期は参加していた…という。

Sławek Jaskułkeの最新作「Music on canvas」

2002年から、彼のキャリアは現在も続いていて、多くの作品に参加していたり、もちろん自身のリーダー作も多くリリースしているのだけれど、特に、2012年に、同じ、ポーランドのピアニスト、Piotr Wyleżołとのデュオ作品「DuoDram Lalala Koncert」(スワヴェク・ヤスクウケが3曲、ピョートル・ビレゾウが2曲のオリジナルを演奏)から翌年2013年の名盤「Moments」、そして「Sea」からの流れが、今の、ジャズの枠組みに収まらないクラシカルでメロディックなテーマを演奏するスタイルとなる出発点のような気がする。

主にジャズ・アーティストとして知られながらも、ジャズとモダンクラシックの両方のスタイルが備わり、古典的作品から、現代作品の枠組みに縛られない演奏は、ともすれば、ジャンルのコアなファンから、”ニューエイジのよう”と揶揄されたりされるかもしれない。しかし、バルト海沿岸出身の彼が海をテーマにしたイマジネイティブな作品「Sea」や、彼の娘に”眠るときの音楽を聴かせて”とせがまれ、それがアイデアとなって制作された「夢の中へ」「夢の中へPart II」、そしてリリース予定のなかった歴史博物館にある野外庭園で行われたソロコンサートにおける、鴎の鳴き声、子供たちの笑い声といった偶然のフィールドレコーディングと一体となったピアノ演奏が収録された、彼の代表作「Park.Live」などは、繊細なピアノの技術と、クリエイターのような絵画的描写が一体となった、ジャンル括りの中では決して生まれることのない、幻想的で落ち着いたシネマティックなサウンドは、これまでの練磨を経た中で培い生み出した彼独自のスタイルといえるもの。

そして2021年、待望の最新作「Music on canvas」は、ミニマリズムとコンセプチュアリズムの絵画の伝統を創造的に発展させた、ポーランド現代美術家ラファウ・ブイノフスキの、「Nokturn(Graboszyce)」(=夜想曲)という作品群(2012-2013)からインスピレーションを得、ここ数作の絵画的描写が、より一層深まったピアノ作品となっている。淡い月明かりが夜の風景の空間を作り出す、ブジュノフスキの描き出す黒と白の世界。降り注ぐ光の描写がたまらなく美しいのですが、そんな世界に導かれるように、スワヴェク・ヤスクウケのピアノは、精微で流れるようなアルペジオと和音の巧みさと、瞑想的で、静寂を感じる穏やかさの調和が取れた演奏を聴かせてくれる。

彼のピアノに身を委ねる心地よさは、ラファウ・ブイノフスキの作品を眺めながらはもちろんなんだけれど、田舎の夕暮れ前の輝く光に照らされた景色と重ね合わせると、また一層じんわりとくるものがある。彼のピアノには、簡潔の美はあっても、けっして、イージリスニングにはならない彼ならではのソノリティーがあるのだとこの作品を聴いて改めて思う。

01. Music on canvas I
02. Music on canvas II
03. Music on canvas III
04. Music on canvas IV
05. Music on canvas V
06. Music on canvas VI

PASTEL RECORDS STOREはこちら!


PASTEL RECORDS STOREは、「好奇心とやすらぎの音楽」というキーワードで、世界のインディペンデント・ミュージックより、美しく、個性的で、心がこもっていて、気取っていない、日々の生活の中でも、やわらかな刺激を与えてくれる心地よい音楽をセレクトしご紹介しております。
関連記事