内田輝(Akira Uchida)+山本 昌男(Masao Yamamoto)「Sasanami」(IIKKI)

ヴィジュアルアーティストと、音楽家とのコラボレーションプロジェクトがレーベルになった、フランスのiikki books。音楽サイドからになるのですが、過去には、Taylor Deupree & Marcus Fischerや、Federico Durand、Aaron Martin、そして日本人音楽家、MASAYA OZAKI&中堀 海都らの作品をリリースしています。そしてiikki、12作目のリリースとなる作品は、サックス奏者、ピアノの調律師そしてクラヴィコードの制作/演奏も行う音楽家、内田輝と、1990年代より欧米を中心に活躍し、国際的に高く評価されている写真家・山本昌男との組み合わせ。

それにしてもCD/レコードのジャケットになっている写真はなんて素晴らしい美しさだろうか。木の枝が幾重にも折り重なり一面覆う満開の桜は、モノクロともレトロ写真とも違うトーンは、まるで人の記憶なかだけで広がるような、静謐な佇まいが伝わってくる。見ていると桜のようで桜でない不思議な気分に包まれる。そこから聞こえてくるのは人の気配ではなく、風に揺られる桜の花や、木々の音、鳥の鳴き声?もしくは記憶に残っている言葉の断片?この写真の前では、人の無力さを感じさせつつも、桜はいっときの安らぎも与えてくれる。

内田輝の音楽は、この作品にかかわらず、静寂を誘う音を奏でる音楽家。サックス奏者、ピアノ調律師、そして14世紀に考案されたクラヴィーコードを自ら制作して演奏し、haruka nakamura PIANO ENSEMBLEのメンバーとしても活躍する「sasanami」は、1曲20分にも及ぶ、長尺のサウンドスケープ2曲で構成されている。波の音、アトモスフェリックなサウンドが蜃気楼のように包み込む。やがて、場面が移り変わるように、ヒグラシの鳴き声が聞こえ、やがて、クラヴィーコード、そしてサックスが順に現れ、水の音とともに、それぞれが戯れながら、自然の神秘性を映し出す山本昌男の世界に呼応するようなサウンドスケープを聴かせてくれる。中盤から終盤にかけては、坂本美雨が歌う優しげなスキャットも交わり、それぞれの楽器同士の優美な調べとともに、静寂の世界をより一層幻想的な世界へと導いている。

2曲共、繊細な息づかいと緊張感がありながらも、この音世界に入り込むと、どこか懐かしいような、安らかな感覚もあり、まるで写真集のページをゆっくりとめくるように、サウンドが少しづつ移りゆくようでもある。様々な音が混ざり合いながらも、丹念に音の響きと着想の卓抜さで、静寂の奥に潜めく世界を表現する内田輝のサウンドスケープは、時が移ろう叙情が体を包む。

いつもながらCD、レコード、写真集と3種類でのリリース。写真集には、音源のダウンロードクーポンがついております。

01. Sasanami #1
02. Sasanami #2

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