Simon Scott「Apart」(12k)

2020年から今現在まで、続く新型コロナの影響。いったいなんでこうなったんだろう?とごくごく平凡な田舎に暮らしていても、天気の良い清々しい朝の風景には一瞬、マスクを外したくなるような心地よさを感じた瞬間に全く真逆の異なった現実を思い出し、余計にゲンナリしてしまう。

もちろんこのウイルスによってたくさんの命が奪われていき、日本でも、毎日ニュースで本日の死者は〇〇人なんてゾッとするようなことが極々当たり前のように報道されているけど、SlowdiveのドラマーSimon Scottも、2020年に、父親をコロナウイルスで亡くしている。

父親が亡くなったあと、彼は、イングランド東部に広がる広大な平野の自然保護区であるニューデコイにいた。グレート・フェン地区の中心部に位置するこの場所は、池や湿った牧草地が広がり、遠くには森があり散歩に最適な場所であろうことは、いくつかのサイトで確認できる。

▼多分ここかな?

広大なフェンスランドの空の下に広がる広大な平地の風景。そこでヒバリの鳴き声を聞いた時、彼は父親を亡くしたという深い喪失感を印象付けるものになってゆく。そこは幼少期、父親と訪れた思い出の場所でもあったのだけれど、それと同時に、ヘレン・マクドナルドの「オはオオタカのオ」のなかで、深い悲しみの中で、人は「すでに失われた世界にしがみついている」という記述を引用し、ひばりが、永遠に姿を消す前にアーカイブとしてのオーディオ・ドキュメントを作成しなければならいという衝動に駆られる。そんな経緯のもと作られたのが、この「Apart」である。

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Simon Scottは、Slowdiveのドラマーであると言うことは有名だけれど、2005年から自身のソロプロジェクトTeleviseをはじめ(途中で自然消滅?)、現在はソロで、かなりの作品をリリースしている。正直それどれもが、最高!と言うわけでもなく、悪くもないんだけど、結局そこまで良くもない…というタイプの作品が多い(すみません)。当初は、シューゲイズの流れを汲んだアンビエント作でしたが、フィールドレコーディングを中心とした、近年のアヴァンなサウンド路線は正直キツイ。ただし、NYの音響レーベル12kからの、「Below Sea Level」、「Shape Memory」(Marcus Fischer との共演作)と、彼の作品には珍しい、ヴォーカルがフューチャーされたベルリンのsonic piecesから超限定で出た7インチ「Depart, Repeat」はおすすめなので是非聴いて欲しいです。

ということで、Simon Scottによるジャケットのアートワークの世界が広がる、本作「Apart」は、12kから、というのと、広く聴いてもらいやすい部類に入る作品なので、オススメです。ポータブル・フィールド・レコーダーを取り出して録音された、父親との思い出の地でのフィールドレコーディングに、ピアノ、シンセを用いたサウンドスケープが序盤から中盤まで、不思議な佇まいを持って広がってゆく。

ひばりの鳴き声を背景に、幻想的なような、不安定な心のうちを垣間見るような、それでいて懐かしさも感じるサウンドスケープがゆったり漂う。池や湿った牧草地、木々を通り過ぎる散歩道を歩きながら思いを巡らしているような。やがてラスト曲前の”Apart I”では、短いながらもピアノとシンセによる重厚な展開が訪れる。その重苦しく悲しい響きはまるで、突然おとづれた父親との別れを表しているようにも感じてしまう。そしてラストは再び、インダストリアルなサウンドがフェードインし、重厚な響きに包まれながらフェードアウトして作品は終わる。

01. Apart A
02. Apart B
03. Apart C
04. Apart D
05. Apart E
06. Apart F
07. Apart G
08. Apart H
09. Apart I
10. Apart J

フィジカルでのリリースはカセットのみとなります。カセットプレーヤー持ってない人でも、デジタルダウンロードクーポンがついていますので、聴くことができますよ。

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