Luke Howard & Nadje Noordhuis「Ten Sails」〜過ぎ行く夏の、美しい余暇をとらえたかのような、ナチラルな響き

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

 

ECMや、日本でも人気の高い、Henning Schmiedtなどジャンルを問わない美しいピアノ作品が好きな方ならぜひ知っていただきたい、オーストラリアはメルボルンのピアニスト/作曲家、Luke Howard

幼少期よりクラシックを学んだ彼の卓越した技術は、その後、モントルージャズフェスティバルで、ソロピアノコンペティションで2度、ファイナリストに選ばれるなど、実力を開花。これまで、ソロや、デュオ、トリオを含めこれまで数多くの作品をリリースし、数多くの作品のアシスタント(Ben Frost and Daníel Bjarnasonの「Solaris」やNico Muhly、Valgeir Sigurðssonの作品などにも!)や映画やTV音楽、さらにゲーム音楽まで!ジャンルを問わない幅広い活動を行っています。

ともすればコマーシャル過ぎる嗜好に偏る印象を持ってしまいがちなんですが、彼自身の作品については、前述したジャンルに縛られることのないポピュラーさが、いい意味で彼の作曲に反映されていて、クラシックとジャズそれらが、Luke Howardのナイーヴな感性と相まって、奏でるピアノはどの曲もなんら嫌みのない聴き手を選ばない親しみやすさを抱いている。そして、彼の作品を一通り聴いた中で、そんな彼の良さを一番感じるのが、ソロでもトリオでもなくデュオ作品でした。

デュオは、これまで2作品をリリースしていて、1枚は、ベルギーはアントワープのベーシスト、Janos Bruneelとの作品で、2011年にWhich Way Musicよりリリースされた「Open Road」、そしてもう一枚は、同じオーストラリア出身で、現在はブルックリンを拠点に活動をする女性トランペット奏者、Nadje Noordhuisとのデュオ作でLuke Howardの最新作でもある「Ten Sails」。ここでは一応「Ten Sails」の紹介になっているのですが、「Open Road」はぜひ聴いていただきたいです。ドラムレスのインティメイト雰囲気の中、2人の気品ある演奏が優しく漂い、ただただぼんやり聴き惚れてしまうラストの”Open Road”は名曲です。

そして「Ten Sails」は、2014年の夏にベルリンのLichte Studio(Efterklang、Peter Broderick、Lubomyr Melnykなども使用している)でレコーディングされた、Nadje Noordhuisのトランペットと、リリカルなLuke Howardのピアノのコントラストが実に美しい作品。Nadje Noordhuisは、2007年に、優秀なジャズ・アーティストを世に輩出して世界的な権威を誇る、「セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティション」のサックス部門でセミ・ファイナルまで残った実力者。

オーストラリア人の女性イラストレーターLuci Everettによる、ヨットの帆を浮かべたアートワーク、そして2人の引き立てあう演奏からは、まるで過ぎ行く夏の、美しい余暇をとらえたかのような、ナチラルでくつろいだ響きの心地よさに、しばしうっとり…。それぞれの演奏は、オーソドックスなジャズによくあるメロディーから演奏者のフリーなインプロ的な曲展開ではなく、作品全体で一つの作品のように1曲1曲が、情景を詠む、ポエトリーリーのようなフレーズが、何の嫌味もなく自然と心に染みてきます。

メランコリックな気分に浸れるエモーショナルで時にアンニュイさを醸し出すトランペットの揺らめきと、引きと華やかさをわきまえた、涼やかで美しいテンダーなピアノとの調和は、休日の昼下がり、物思いにふけりながら(そんな贅沢なひと時があれば…)ぼんやりと聴くには最高の音楽です。

2015年06月13日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , , Comments Closed 

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