Radicalfashion「GARCON」〜潜在意識のレベルで刺激し、こころ落ち着かせてくれる作品

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

 

かつて90年代後半から、2000年前半頃にかけて、日本ではシカゴの音楽シーンが最も熱く紹介されていたように思う。エレクトロニカという言葉の存在が徐々に未来に繋ぐ架け橋となる可能性というか希望というか、そんなワクワクした期待感みたいなものが今以上にあって、その中心にいたのが、ご存知tortoise(トータス)やジム・オルーク、スリルジョッキーやドラッグシティーとか…また、その周辺の音楽家たちやレーベルも数多く紹介されていました。

そして、その流れの中にあって一際輝いていたレーベルの一つに、Hefty Recordsというレーベルがありました(今でもWEBサイトは稼働中)。Heftyは、1995年に映画監督ジョン・ヒューズの息子、ジョン・ヒューズ3世によって始められたレーベルで、1970 年のデトロイトで伝説のレーベル「TRIBE」をウェンデル・ハリソンと共に立ち上げたトロンボーン奏者、Phil Ranelinの作品や、Savath + Savalasを始め、John McEntire、Telefon Tel Aviv、The Aluminum Group、L’Altraなどシカゴで活動している(いた)アーティスト、また、ジョン・ヒューズのSlickerなど、それらどの作品も時代の潮流に呼応したクオリティーの高い内容のものばかりでした。

そしてこのレーベルには2人の日本人アーティストの作品がリリースされていました。その一人がMondiiで、もう一人が、ここでご紹介する、Radicalfashionによる最初のアルバム『Odori』でした。

Radicalfashionは、神戸出身のHirohito Iharaによるプロジェクト。最初にリリースされたアルバム『Odori』が、Pitchforkや、FACT Magazineなど多くのメディアに絶賛されます。もちろん日本でもこの作品を聞いてファンになった方も少なくないので?

『Odori』は、ピアノがサウンドの中心でいながらも、Heftyらしい電子音や、様々なサウンドコラージュ、また、人の声やピアノをプロセッシングしたりと、まさにエレクトロニカという言葉が新鮮だった頃の先端を行くサウンドとも言えるものなんですが、今聴いても、瑞々しくも心地よい浮遊感、優雅で洗練された美意識の孤高さは、懐かしさよりも、作品の持つ普遍的な魅力に溢れている。作品のフレームは『Odori』とは違っているかもしれないけど、久しぶりに届けられた作品「GARCON」でも、その印象については大きく変わることはない。

ただ作品序盤3曲での未加工なピアノだけの優雅な演奏は、エレクトロニカ時代の印象はどこへやら、トウヤマタケオや、flauからリリースされている、ヘニング・シュミートのような情景の浮かぶピアノ作品を思い浮かべてしまう。もともとクラシカルな、演奏力のあるピアノを聴かせていたので、純粋に、ピアノ演奏だけになっても、にわかピアノというわけではないのは聴いていただけると分かっていただけるだろう。そしてそのピアノ演奏に浸っていると、やがて蜃気楼のような淡いまどろみにも似たアンビエントエレクトロニクスが漂ってくる。

作品を聴き進めるにつれ、生演奏主体の独創性とメロディアスで抒情的なピアノ演奏、そして実験性が顔を覗かせてくる…と書くと、なにやら難解な作品の印象を与えてしまう恐れがあるんですが、全くそんなことなく、作品の流れに身を委ねることのできる不思議な統一感がある。

おそらくこの作品がピアノソロ作だったら…もう少し聴く人のハードルが下がるかもしれないけど、「GARCON」に関して言えば、それば本当に残念でもったいない意見になる。ここでは、アコーステックの繊細で美しい旋律や重なり、サウンド・コラージュやエレクトロニクスを組み合わせた独創的な試み…という対照的な組み合わせを用いることによっての相互作用がシンプルで優雅な空間のいたるところで楽しむことができる。その試みにはエゴに溺れることがなく、Radicalfashionの洗練された美意識の高さが貫かれている。たただ単にメロディーだけが心地いい…というわけではない、「GARCON」は、潜在意識のレベルで刺激し、こころ落ち着かせてくれる作品なのです。
 

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■ アーティスト:Radicalfashion
■ タイトル:GARCON
■ フォーマット:CD
■ レーベル:flau
■ 品番:FLAU47
■ ジャンル:モダンクラシカル/エレクトロニカ/アコーステック
■ リリース年:2015年

 
01 Prologue
02 Sequence for Tsuguharu Fujita
03 Bone China
04 A ribbon Knot
05 Miuccia Lyric
06 Pointillism
07 Egyptology
08 Drum
09 In Women
10 To “The September 13th”

 

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2015年05月13日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , , Comments Closed 

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