masahiko mikami + masayoshi fujita「conjecture」〜美しく心地よいひとときを運んできてくれる、音と音とのダイアローグ

conjecture

text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

2014年1月投稿の記事で、私の大好きな音楽家、Masayoshi Fujitaが、NHK-FM「世界の快適音楽セレクション」出演することになった際、過去にインタビューした記事を掲載したことがありました。ちなみに「世界の快適音楽セレクション」とは、ギターデュオグループ、ゴンチチが進行を務めるNHK-FM放送の音楽番組で、1999年にスタートということで実に17年以上も続いている長寿プログラム(実は過去に私も出演させていただいたこともあります)。

あれから2年、自分のお店で、ゴンザレス三上さんが藤田さんの作品を購入していただいた経緯は置いといて、ラジオ出演はまだしも、2人の共作までの流れになるとは思いもしなかったのですが、結果『conjecture』という作品をリリースするまでに至ったことは、私自身としても本当に感慨深いものです。

正直なところ私自身、ゴンチチ〜ゴンザレス三上さんの作品を熱心に聴くリスナーではありません。素晴らしい音楽家だと意識はしながらも、聴かせていただいた作品は、たとえ自身の嗜好を織り込んだとしても、結果的にどことなく予定調和な、いわゆる長年のファンが望んでいるであろう場所に落ち着いてしまう無駄な背伸び感、マンネリさが聴いていて、長年活躍されてきた職業病かなとも思ってしまうところも(かなり酷い書き方になってますね)あまり進んで聴かなかったところではあるのですが、でもフォローじゃないのですが、三上さん自身もそれは自覚されているような気がするんですよね(間違ってたらすみません)。それでソロ活動では、積極的に若い人たちと交流を持ってまだまだ自身を高めようと意欲的に活動をされている。その素晴らしい成果が『conjecture』だと思うし、この作品を作り上げた三上さんを、僕は影ながらとても尊敬しております。

さて本作は、ドイツはベルリンで拠点を置く、藤田さんと、三上さん。当然、メールと音源データのやり取りで制作されたもの。作品の表面的には、三上さんのギターがまず中心に存在しているのですが、この演奏が本当に、たおやかで、まだ見ぬベルリンに住んでいる藤田さんを思い、その風景を想像しているような、豊かなハーモニーを奏でている。もともと卓越した技術を持ったギタリストではあるのですが、ここでの演奏は本当に三上さんのお人柄に触れる優しさと、これまでの経験がフィードバックされた極上の演奏を堪能することができます。

藤田さんのヴィブラフォンが、ソロ作品に比べると当然なのですがちょっと控え気味かなと最初の聴いた印象だったのですが、作品をじっくりと聴き返してゆくと、ヴィブラフォン奏者、masayoshi fujitaとしてではなく、作曲家として、そしてマルチな演奏者としての彼の存在が本当に大きいことがわかります。クレジットを見ると、1曲のみゲストが参加していますが、それ以外のギター、一部ブログラミング以外は、藤田さんの演奏であることが確認できます。なので、この作品決して、三上さん中心で、藤田さんがゲスト参加したというような、企画ノリのものではなくて、かなり両者が踏み込んで作り込まれたことがわかる奥深い仕上がりです。

ラジオ番組出演の際に披露されていた、”夕暮れ、さざ波(sunset,sazanami)”ももちろん収録。ジャズ〜クラシック〜ボサノバをポピュラーな魅力に提示する側面と、表現者として結構突っ込んだ演奏も披露している三上さん、それに呼応するような、藤田さんの、el fogを彷彿とさせる、クリック、ノイズを複雑に散りばめたエレクトロニクスや、アコーステックドラムを披露したり、自身の多彩なサウンドパレットを奏でながらこの作品を形作り、じっくり2年間熟成させるように、往復書簡によるアイデアを膨らませた2人のダイアローグが、どの楽曲も美しく、心地よいひとときを運んできてくれます。

イギリスのイラストレーター、Polly Fernによるアートワークもこの作品の音を表してるよう。ぜひ手にとっていただきたい作品です。ちなみに音源試聴は、itune storeなどで聴くことができますよ。

 

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2016年12月06日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , , , , Comments Closed 

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