Joan Shelley – Real Warmth(No Quarter)
Text : KENJI TERADA(PASTEL RECORDS)
アメリカ・ケンタッキーに生まれ、現在はミシガンで暮らすシンガー・ソングライター、Joan Shelley。本作は、2022年作『The Spur』以来となる最新アルバムとなります。個人的には、Maiden Radio時代から追っかけているので、キャリア的には15年になるんだな〜。
実は、2020年頃に、日本でコーヒーハウス・ツアー(多分小規模な、例えばカフェとか)を考えてたみたいで、2019年の秋頃に、どこか紹介してくれない?みたいなメールが当店に来ていたのですが、その後の新型コロナウイルスの流行によりこの話は流れてしまい、その後、2022年にリリースされた『The Spur』がまた良かっただけに、本当に残念でしたが、そこから3年か〜で、結論を先に言うと、届けられた本作「Real Warmth」もめちゃくちゃ素晴らしかった。
彼女の癒しの歌声。それは、英国フォークの伝統を思わせるような清らかな質感と共に、大きな声量での感情表現ではなく、静けさの中で声の温度を変え、息遣いを感じさせるような、唯一無二の澄み切った表現と自然体の歌唱が最大の聴きどころなのですが、これまでの作品とは違った、まろやかな演奏との調和が、これまでの作品にはない、瞑想的で、深い余韻を湛えている。
2024年の終わり頃、新しい楽曲群が少しずつ形を取りはじめた同じ時期、彼女と家族はミシガン州の新居での生活に落ち着きつつあるなかで、「才能ある友人たちと共にレコーディングできる場所」を探しはじめます。
そこで出会ったのが、The Weather Stationや、Jake Xerxes Fussell のベーシストである、Ben Whiteley。彼の所有するカナダ・トロントの、Casa Wroxtonスタジオにて、真冬のほんの限られた時間でのセッションで、『Real Warmth』は形となっていきます。
余談ですが、ミシガン州在住なのになぜカナダ・トロント?と思ったのですが、地図で見ると意外と近いんですねぇ〜。
話を元に戻すと、この冬の短い時間をとらえたセッションは、限られた時間だからこその「個」と「共同体」とが響きあう時間が封じ込められています。Ben Whiteleyが、演奏者だけでなくプロデューサー&録音/ミックスとして参加、ドラマー Philippe Melanson、サックス奏者 Karen Ng、シンガーソングライターの Doug Paisley と Tamara Lindeman、Matt Kelley、Ken Whiteleyら、トロントの音楽家が加わり、ShelleyのパートナーでギタリストのNathan Salsburgも参加。アルバムのジャケットとインナー・スリーヴは、トロントのアーティストHeather Goodchildが手掛けています。
タイトルの “Real Warmth” には三重の意味が込められている。身体のぬくもり、人間的な精神の温もり、そして地球そのものの「現実の温度」。Joan Shelley はそのいずれをも否定せず、むしろ同時に抱きしめる。だからこそ、ここでの歌たちは親密でありながら、同時に、広がりをも感じさせる。
パンデミックで家に閉じこもらざるをえなかった過去から、家族とともに新しい土地に移り住む現在へ──『Real Warmth』は、「ひとりで作り上げる」のではなく、「いま、その場所にいる人々の呼吸」と共に、精緻に構築された作品というよりは、彼女の包容力が表れた、「その瞬間を捕まえた音の記録」と呼ぶにふさわしい、うたも、演奏も、まろやかな温かみに包まれているのです。
ギターと歌を軸に、ペダル・スティールの音色やサックス、ドラムが淡く色を差し、音楽はひとつの居場所を描き出す。彼女の歌は「大きな声で世界に訴える」ものではない。けれども、この静けさこそが真実の温度を伝える。音楽とは共同体のなかで鳴り、日常に寄り添い、時代を映し出すものだと。
▪️収録曲(トラックリスト)
1.Here in the High and Low
2.On the Silver and Gold
3.Field Guide to Wild Life
4.Wooden Boat
5.For When You Can’t Sleep
6.Everybody
7.New Anthem
8.Heaven Knows
9.Ever Entwine
10.Give It Up, It’s Too Much
11.The Orchard
12.Who Do You Want Checking in on You
13.The Hum
投稿者プロフィール

- 生まれも育ちも奈良県葛城市。大阪は阿倍野区にあった中古レコード/CDショップにて約13年の勤務後、2006年5月にネットショップをスタート。現在は、音楽以外の仕事もこなしつつ、不定期で、大阪大正区にある、井尻珈琲焙煎所にて、出張販売を行っています。


























