FEDERICO DURAND「Alba」(12k)
ブエノスアイレス出身でラ・クンブレ(コルドバ)在住の音楽家、FEDERICO DURANDの音楽は、2009年に、マレーシアのmu-nestコンピに参加後、2010年に、spekkからのファーストアルバム「La siesta del ciprés」で、日本でも知られることになる。
「La siesta del ciprés」以降、FEDERICO DURANDは、ソロ、コラボレーション含め、10年以上に渡り、沢山の作品を作り続けている。アンビエント作品としては異例ともいえる日本でのセールスはもちろん、世界中で、彼の音楽は、とても評価されている。だけど、とある海外のインタビューで、「本当にいつも仕事をしていて、夜や昼間の5、10分の空き時間に音楽を作っているんだ」「早起きして、仕事に行く準備をする前に、寝る前に作ったミックスを聴いているんだ」といった内容を見て、思わず笑ってしまったけれど(馬鹿にしてると誤解されちゃうと嫌だから補足すると、私自身、pastel recordsの運営は、日々の生活の合間に行っていて、別の仕事の出勤前に、出荷作業したり、写真撮影したり、夜中にレビュー書いたりしているから、フェデリコの言葉に、親近感を抱いた、ということです。)、彼の音楽の魅力の一端でもあるなとも思った。
そういえば彼は、松尾芭蕉に憧れを抱いていて、2度目の来日時、奈良公演のあとに、松尾芭蕉の生家を訪れたくらいなのですが、そんなフェデリコは、音楽だけでなく、その人柄も含め、多くのファンに慕われているけれど、松尾芭蕉も、謙虚で自由な人、他を認めることのできる人であり、多くの門弟に慕われていたという点、また、わびさびを好み、シンプルな言葉で句を詠んでいたという部分も、フェデリコの作品に通じるところを感じる。
エクスペリメンタル/アンビエント・ミュージックのシーンにおいて、今も昔も変わらず重要なレーベルの一つ、ニューヨークの〈12K〉レーベルよりリリースされた、FEDERICO DURANDの最新作「Alba」。「Alba」とはスペイン語で、一日が始まる、太陽が昇る前、最初の光が現れ、すべてのものが、魔法のように見える瞬間のことを意味します。いつもながら、音楽工芸品のようでもあり、詩的であり、言葉では説明できない、儚さや、心模様をスケッチしているようでもあるフェデリコの音楽。
今回も、クレジットには、ソニーTCM 200-DV(テープレコーダー)、ポータブル・シンセ、オルゴール、コンタクトマイク、ゆりかごのおもちゃ、ローランドスペースエコーRE-201、ARPシンセサイザー、エレクトリックピアノとおもちゃのピアノ…などなど、彼の音楽を支える機材が名を連ねている。それは、人から見れば、なんら特別なものではないのかもしれない。費用のかかるオーケストラを使っている訳でもなく、豪華なスタジオで録音されたわけでもない。音数は少なく、一つの音の余韻がより一層静寂を誘う。音そのものに、何かが宿っているような、響き、揺らぎ、それは多くの人が天上のサウンドと呼ぶように、メロディーを通じて感じるものとはまた違っている。
誤解を恐れずにいうと、フェデリコのサウンドは、決してシンプルでわかりやすいものではない。ともすればシンプル=わかりやすさが善であるかのようなムードが音楽だけでなく様々な分野でも、もてはやされているような気がするが、それは誤解であると言って良い。わかりやすさは、思考や発想の無個性化にすぎない。でもフェデリコのサウンドは、シンプルだけれど、わかりやすさとは、言葉の意味が違いすぎる。この「Alba」を聴いていると、環境に響く何かとフェデリコの中で繋がった複雑な感性を、即興で音に落としこみ、作為なく統合ししてるのがよく伝わってくる。だからどんな微細な音の変化も、音の余韻がきらびやかで、あたたかい。例えば、もし、ひだまりの中から音が聞こえてきたとしたら?きっとFEDERICO DURANDの作品で聴かれるような音なのかもしれない。
「Alba」は、アルバム全体で楽しむ作品というよりは、時々断片的に、その時々を楽しむ作品だと、勝手に解釈している。正直これまでの作品ほど、一気に作品を通しでは聴けなかった。それは、作品がダメとかではなくて、一つ一つの音そのものの深さに集中し、また作品の音以外の、”耳が戻った時”の余韻を楽しみたいから。すこしづつ聴くことを私はおすすめいたします。
アートワークは、北アイルランド出身のデザイナーで、現在はグラスゴーを拠点に活動している、Emer Tumilty。建築とビジュアルコミュニケーションの両方のバックグラウンドを持つ彼女の作品は、今の12kレーベルに新鮮なイメージを与えている。
A1. Alba
A2. Postal de las Islas Feroe
A3. Comenzó a nevar
A4. Un pequeño bosque de lengas
A5. Poesía inédita de Aina Adelborg
A6. Junto al hogar a leña
B1. Tape-loop para Otti Berger
B2. La caja de fotos y recuerdos
B3. Un gato escondido entre las plantas
B4. Té de jazmín
B5. Luna moth (Actias luna)
B6. Ua
B7. La aventura del zorro gris
B8. Jardín de musgo