Richard Moult「Aonaran」〜荒涼とした大地に広がる、豊潤で深い響き。

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

イギリス人でスコットランド在住の作曲家/画家/詩人、Richard Moultの、2013年にリリースされていた作品「Aonaran」をすっかり聞き逃していたのですが、これが本当に素晴らしいモダン・クラシカルな作品で、今更ながらですが圧倒されております。これまでに数多くのソロ作品をリリースしていますが、その他にもアイルランドのエクスペリメンタル・フォークバンド、United Bible Studiesのメンバーとしても活動しています。日本ではまだ知る人ぞ知る存在なんですが、Plinthや、The Cloistersで知られる、Michael Tannerや、Second Languageからもリリースしている、Aine O’Dwyer始め、各メンバーそれぞれが、ソロでも多彩な活動をしている手練れな集団で、リリース作もとても興味深いものばかり…ということで、ぜひこの機会に、United Bible Studiesの作品も聴いて頂きたいなぁ〜と。

さて、本題のRichard Moultの最新作「Aonaran」です。リリース先は、Wild Silenceというところから。このレーベルは、フランス人女性ピアニスト/コンポーザーのDelphine Dora(この人もぜひ注目してほしい!)が運営していて、先鋭的なジャズを中心とした実験/即興音楽と、美しいアートワークでのリリースがどのタイトルも素晴らしい要チェックなレーベル。

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「Aonaran」の前は、United Bible StudiesのDavid Colohanとのコラボ作品「Hexameron」を、Time Released Soundから「Aonaran」と同年の2013年にリリースしているのですが、こちらはピアノとギターを中心とした作品だっただけに、「Aonaran」での、Michael Tanner、Aine O’Dwyer、Oscar Strik、そしてDavid ColohanといったUnited Bible Studiesの面々、そして彼の友人ら、多くのゲストが参加した、壮大で荘厳な、神々しいまでに美しいサウンドアンサンブルには心震えます。

出だしからなかなか演奏が聴こえてこないのですが、やがて、1分を過ぎた頃から、Aine O’Dwyerのハープの音色が聴こえてくる。その響きは、凛としていながらも、厳しい荒野の自然が一時、顔を見せる静寂の優美さを表しているような調べのよう。そして2曲目に移り、ピアノの伴奏と共に、David Colohanの渋味のある歌声が、深く響く。ただ、この作品の聴きどころは何と言っても、24分を超える3曲目の”Rionnag Mór”に尽きるでしょう。

Richard Moultのピアノやエレクトロニクス、Aine O’Dwyerのハープ、Michael Tannerのギター、Oscar Strikのパーカッション、そしてオーボエやヴィオラ、フルートが穏やかに奏で始める。そのたゆたう演奏の幻想的な美しさと言ったら!この曲、本当に長い曲なんですが、まだ終わらないの?といったダレたところがなく、細密な配慮によって導き出されるミニマルで壮重なサウンドアンサンブルの中に、自然の厳しさが身にしみるような、厳然たる調べを落とし込むヴィオラの響き、そしてそれに対極するかのような美しさが、うねりの中で展開され、24分強という時間があっという間に感じるほど、その濃密さにただただ圧倒されます。そして”Rionnag Mór”の余韻を残しつつ、再びピアノとDavid Colohanの歌。もうたまらなく切なく優しい…。ラストは、Richard Moultのピアノソロで幕を閉じる約44分。ジャケット写真の荒涼とした大地に広がる、豊潤で深い響き。春の訪れを感じながらも、まだまだ厳しい寒さが続いています。

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2015年02月05日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , , , Comments Closed 

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