Guillermo Rizzotto「Vindu」~アルゼンチン、ノルウェーの伝統音楽が結びあうひと時

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

アルゼンチンのギタリスト、ギジェルモ・リソットの新作がリリースされた。アルゼンチンフォルクローレに根差しつつも彼の奏でるギターは、伝統音楽の型に縛られた演奏とは違い、クラシックを含めジャンルの壁をあまり感じることがない。「ソロ・ギターラ」「ソロ・ギターラ2」にしても日本で人気が出たのは、ギター1本のシンプルな演奏が、あまり聴き手に伝統音楽を意識させなかったところと、日本人にも通じる繊細さや、心に触れる旋律が香るように聴き手を魅了するものだったからだと思う。

そういえば、以前、取引先の方との会話の中で、”ギジェルモさんは、raster-notonの作品が好きなんですよ~えーそうなんですか???”という話になったことを思い出す。本当かどうかは本人に確認できていないんですが、なんだか妙に納得したようなしないような…ひょっとしたらエレクトロニカ作品を出すんじゃないか???なんてちょっと一抹の不安がよぎったり(それはなくて安心しましたが)。ウルトラ・ミニマリズムとギジェルモ・リソットかぁ~まあ本当のところはわかんないけど…。

というわけで新作「Vindu」なんですが、以前、姫路にあるハンモックカフェさんのインタビューにも触れられていた、北欧ノルウェーの現地ミュージシャンとのセッションが形になったものです。ことの成り行きは、バロックリュートの名手でアルゼンチン出身の、エドゥアルド・エグエスのグループ、アンサンブル・ラ・キメラのツアーに参加したことがそもそものきっかけのようです。ハンモックカフェさんのインタビューでも話している通り、アンサンブル・ラ・キメラのツアーでは、その国の古典音楽を独自の解釈で演奏する、ということが行われていたようで、この作品もそのコンセプトが元になっているみたいです。

今回のアルバムにはツアーで初めてノルウェーを訪れ、現地で知り合った音楽家3人(Åshild Wetterhus, Even Tråen, Sivert Holmen)と、作り上げています。作品で聴く演奏はノルウェーの伝統的なフォークミュージックや、それらに影響を受け作り上げたオリジナル曲などで構成されています。

…とここで前述の、彼の音楽が多くの日本人に受け入れられたところについて、伝統音楽をあまり感じさせない、というところに、多くのリスナーを取り込んだ要因があることを挙げたんですが、今回の作品「Vindu」は、アルゼンチンのフォルクローレを源流とした音楽家が、中世から受け継がれてきたノルウェーのフォーク・ミュージックの伝統に根ざした実力ある音楽家と、根っこの部分でのそれぞれの価値を認めあうことで出来上がった作品である。

なので、これまでの作品に比べると、トラディショナルな部分に馴染みのないリスナーにはちょっとだけ、ほんの少しだけ、違和感を覚えるかもしれない。だけど、もし、出だしのフィドルの音色で、この作品をあなたがスルーしてしまうという判断をしたとしたら…本当にもったいないことだし、とても残念なことである。

フィヨルドで有名なハルダンゲル地方で生まれたノルウェーの民俗弦楽器、ハルダンゲル・フィドル奏者のEven Tråen(エーヴェン・トローエン)、Sivert Holmen(シーヴェット・ホルメン)に、kraviklyreという、7弦リラ(立て琴に近い弦楽器)奏者で素晴らしい歌い手でもあるÅshild Wetterhus(オースヒル・ヴェッテルフス)らとのレコーディングは、ヌーメダルにある教会、flesberg stave churchで行われています。演奏風景は、ユーチューブにもアップされていますが、モノクロなんで…、

あっ、カラーでの映像もありました!

実際の教会内部の雰囲気は、こんな感じ。

Flesberg

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まるで童話の世界に出てきそうな建物なんですが、そんな暖かくも厳かな空間の中で、アルゼンチンのフォルクローレをルーツに持つひとりの音楽家/ギター奏者が、ノルウェーの伝統音楽を奏でている。

あくまで断っておきますが、これは、ギジェルモ・リソットが演奏するノルウェー伝統音楽のカヴァー集という類のものではない。確かにクレジットには、現地の伝統的な曲だったり、参加メンバーの楽曲も多数ピックアップされていますが、私が聴く限り、彼の奏でるギターは、これら現地の伝統にどっぷりそのまま浸かるような演奏ではなく、アルゼンチンの伝統音楽であるフォルクローレがしっかりと軸にある演奏で、ノルウェー伝統音楽に敬意を持ち、参加している音楽家との、どこか相通じる部分と唱和しあって、ギジェルモ・リソット自身が描く、ノルウェーの美しい風景を描きだしている。

柔らかなガットギターを通じ、周りの空気や湿度などが伝わってくるような、ギジェルモ・リソットの奏でる豊かな響きも素晴らしいのですが、それと同じくらい、オースヒル・ヴェッテルフスの歌唱、そしてさりげなくも絶妙な間でゆるやかに溶け込んでゆくエーヴェン・トローエン、シーヴェット・ホルメンの演奏に、心満たされてゆく。本当に味のある人たちが絡むと必然的に作品も味わい深いものになる。それにしてもこの作品を聴いていると、ますますギジェルモ・リソットという人は真摯できっちりと自分のイメージをリードできる実力のある音楽家だなと思ってしまった。

この作品は主に参加メンバーとともに演奏している楽曲が多いんですが、3曲だけ、ギジェルモ・リソットのギターソロナンバーが収められている。それがまた良くって、本当に豊かな音色とさりげない優しさ確かな技術が込められた曲となっています。
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■ アーティスト:Guillermo Rizzotto
■ タイトル:Vindu
■ フォーマット:CD
■ レーベル:Rip Curl Recordings
■ 品番:RCIP-0209
■ ジャンル:フォーク/フォルクローレ/クラシック
■ リリース年:2014年

<収録曲>
01. Preludio (solo version) / Renacer
02. E sette me på sullarkrakk
03. Preludio (trio version)
04. I dag er nådens tid
05. Fankens bæmpel
06. La luz de tus ojos
07. No ska vesle bånet sova
08. Dei hundre felun
09. Intro a Milonga
10. Milonga de la Libertad
11. Sol de medianoche
12. Bogstrandvisa
13. Titil, tåtil
14. Brudemarsj: «Liv Åsne og Tore»
15. Marsj: «Ann Britt»
16. Springar: «Etter årsmøtet»
17. Vals: «Helsing til Minot»
18. Las verdades del tiempo
19. Como un Langeleik / Halling
20. Rosensfole
21. So ro te Branes

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