西森千明「かけがえのない」~いとおしい気持ち、風景が描かれた心で聴く音楽

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

いきなりですが、「かけがえのない」は、文句なしに、今年聴いた作品の中でも(ってまだ今年はまだまだ終わってないけど…)ベストに推したい作品の1枚です。

西森さんは、2000年に、CLOVER RECORDSより、「room」(カセットでのリリース)、2004年にはオフィシャルでの1st「fragments」を、2007年には自主レーベルno colorより長編1曲を収録した「仄灯」をリリース。今作は、前作「fragments」から約10年ぶりとなるセカンド作となります。

恥ずかしながら、私自身、西森さんの名前は存じ上げていたものの、作品の方は全く聴いておらず、今回縁あって、「かけがえのない」を耳にしたのですが、プレイボタンを押し、ガラスのウィンドベルが風に揺らされながら響く音色とともに聴こえて来た西森さんのまるで彼岸のかなたから聴こえてくるよな、歌声に一気に魅了されてしまったのです。

WATER WATER CAMEL 田辺玄を録音・ミックス・マスタリングにむかえ、南山城村旧田山小学校(cafe ねこぱん)という廃校となった場所で録音された、ピアノと歌によるセカンド・フル・アルバム。この作品を聴いてまず驚いたのが、楽曲や歌について、というものよりもまず、録音の大胆さでした。おそらく、この作品、スタジオで、きっちりと録音していたら、ここまで感動的なものにはならなかったのでは?と思ってしまうくらい私の中で絶妙なのです。おそらく聴く人にとっては、ざらついた質感にも感じるかもしれないし、何か遠い昔に録音された音楽を聴いているような気分にもなるかもしれない。でもこの質感じゃないといけないところのぎりぎりのバランスで、録音場所の”かけがえのない”ひと時が等しく平等に収録されている。それは、床のきしみ、窓が風に揺れる音、隣の教室にいる誰かの気配、窓の外に広がる樹々の葉擦れの音、飛び回る鳥たちの鳴く声、風の吹く音などなど…。でも、これはかなり勇気がいっただろうな~。でも私自身はこの、時代離れした雰囲気がなかったら作品への思い入れは違ってたかも知れない。

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この作品を聴いた時期が、ちょうど2月末頃の卒業シーズンだったので、周りの雰囲気も、なんとなく旅立ちとか、友情とか…そんなマインドがあったかもしれないけど、この作品を聴いていると、自分の底辺に眠っていた”なつかしさ”という情緒がリアルに蘇ってくるような気がして、それが妙に心の琴線に触れる(いまだにそうだけど)。西森さんの心震わせる見事な歌唱で歌われる、明治時代の文部省唱歌”青葉”。そしてその雰囲気そのままに”青葉”に影響を受け作られたという”とある日”含め、純朴で優しいメロディーに溢れていて、本当に心が清らか気持ちになる。「fragments」とは全く異質の、穏やかな時間がここでは流れている。

きっとこの作品を何年か後に聴いても、色褪せない感動が聴き手を包み込み気持ちを動かしてくれるでしょう。心満たされる、心地よい作品はそう多くない。このセカンド作を仕上げるまで、西森さんは約10年時間がかかった。このような作品は技術的なもの云々もそうだけど、感情を自分らしく的確な表現で磨き上げる経験も必要でしょう。作品に向かい合う気持ちと成熟が幸運に重なり合い出来上がった「かけがえのない」という作品。ぜひ、心で聴いてみてください。

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西森さんにはインタビューも行いました!じっくり丁寧にお答えいただいております。現在WEB作業中で近日公開予定ですので今しばらくお待ちください。

■ アーティスト:西森千明
■ タイトル:かけがえのない
■ フォーマット:CD
■ レーベル:CLOVER RECORDS
■ 品番:CLCD-423
■ ジャンル:フォーク/ポップ
■ リリース年:2014年

<収録曲>
01. 風に鳴る
02. 青葉
03. とある日
04. 透明の光
05. 琥珀涙
06. 雨の降る音
07. ゆたかな風景

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2014年05月06日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , Comments Closed 

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