The Green Kingdom : Expanses (DRONARIVM/DR-18)

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米デトロイトのアーティストMichael Cottoneによるソロ・プロジェクトThe Green Kingdomの最新作が出た。

この作品でもう何枚目となるだろう?CD-Rのタイトルを入れるともう9枚も出しているはず。本人のサイトでのDiscographyでは、なぜか、前作にあたる、2012年リリース「Dustloops : Memory Fragments」が抜けていますが…。ここ最近では、昨年にフランスの12kこと、SEMレーベルから前述の「Dustloops : Memory Fragmentsをリリースしているので、思った以上に早いスパンでリリースされたことになります。

リリース先は、モスクワのアンビエント~モダンクラシカルな作品をリリースしているDronarivmで、
Celer、Maps And Diagrams、Pleq、Machinefabriek、Pillowdiver、Hakobune、Alexandre Navarro…などなど、興味深いアーティストばかり。

さて、The Green Kingdomの音楽について…アーティストのWEBサイトでのABOUT欄に、“optimistic nostalgia”という言葉が出てきます。直訳で、”楽観的な郷愁”でしょうか?

割とアンビエント~ドローンアーティストが、ダークだったりクラシカルな路線に舵を取ったりするパターンが多いのですが、The Green Kingdomに関しては、極端に作風が変わることなく、そして裏切ることのないクオリティーの高い作品をいつも聴かせてくれるのは“optimistic nostalgia”が、ぶれずに彼の音楽の根底にあるからだと思います。

ギターのほか、ストリングス、デジタルノイズ、フィールドレコーディング、そしてかすかなビートなどを、抜群のバランスで配置した、繊細なサウンドスケープ。そこから湧き上がる、切なくも、あたたかな心地よさを宿したハーモニーが堪らなく…良いのです。

とはいえ、先ほど、極端に作風が変わることなく、と申しましたが、前作の「Dustloops : Memory Fragments」で少しテクノ~ダブそしてDustloops のタイトル通り、デジタルノイズのコラージュなど実験的な要素が少し表に立ったような作品でした。また、その反面、これと同じ年に、もう1枚、tenchからリリースされている「Incidental Music」では、従来の作風に沿った、聴く人を選ばない、心地良い内容なのですが、この辺、本人的にも本来嗜好しているサウンドの幅が、作品の枠を超えてきていることをうかがわせます。

The Green Kingdomの音楽を紹介する時に良くThe Boatsを引き合いに出すんですが、彼らが、よりミニマル~テクノに進む作品をリリースしていったのと同調しているのかな?と思ったりも。そんな流れでこの「Expanses」がリリースされるわけです。「Expanses」は、基本、「Dustloops : Memory Fragments」をベースに、よりThe Green Kingdomらしく調えた作品…と言えるでしょうか。

オープニングは低域の深いドローンに、琴のような音色に近い音色にピッチを合わせたような弦の響きが
オリエンタルなムードを醸し出しながら、徐々にデジタルなノイズやギターのテクスチャー、そして4つ打ちのビートが挿入され、混沌としながらも、増幅されるようにサウンドのスケールが大きくなってゆく。

重厚で、灰色のダークアンビエントな要素の中に、ひそやかに浮かびあがる淡いノスタルジックな響き。本人は、”Expansesは過去の古典的なアンビエントおよびアンビエントテクノアルバムへのオマージュ”としています。全体を聴き終えて、まずサウンドスケープの内なる壮大さが印象に残るのですが、だけど、いかにもThe Green Kingdom らしい、ギターを爪弾きながらのデリケートな電子音と生楽器による、メランコリックでノスタルジックなサウンドもこの作品ではきちっと底辺にはある。

ただ、数作前くらいから、うっすらと導入していた、ミニマルテクノ~ダブな要素がほのかに反映されてきていて、これまでの、メロディーをベースとしたような作風から、メロディーに依存しすぎない、自身の”optimistic nostalgia”を表現しようとしているようにも聴こえるのですが、この作品はまさに、その流れの中で、アーティスト自身も非常に納得のいく内容の作品といえるのではないでしょうか。

マスタリングは、Home Normal日本のSmall Fragmentsからもリリースしているスウェーデンのアーティスト、Tobias Hellkvistサウンドのイメージを美しく映し出した、ジャケットの写真は、UKのフォトグラファー、Russell Burden によるもの。ダウンロードのみSegue、Tobias Hellkvistのリミックストラックが聴けます。

 

2014年01月27日 | Posted in 音楽レビュー | | Comments Closed 

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