コーヒーを飲みながら聴きたい音楽 Vol.01

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text & select : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

 コーヒーを飲むこと、それはコーヒー好きにとって、ささやかだけれど、気持ちをリセットするのにとても大切なひととき。そしてそんな時間を、もう少しだけ心地よく演出したい時は、微妙なようで絶妙な音楽をチョイスすること。

どのようなコーヒータイムを過ごすか?もちろん人それぞれ自由なのですが、もしあなたが、もう少しだけ豊かなひとときを望むのであれば、今よりも、ほんの少しだけ、音楽を知り、そして自分で選ぶことをお勧めします。なぜなら、”心地よさ”というのは、必ずしも目に見える影響だけではなく、潜在意識の中とも親密に繋がっているから。

このコーナーで紹介している作品には、ジャンルという境界線はありません。見知らぬ音楽家の作品だらけでも、ぜひオープンな気持ちで興味を持っていただけると嬉しいです。ここで紹介する作品が、あなたにとって、偶然から必然の出会いになることを願って…。

Wunder
『Wunder』 (kalaoke kalk) 1998
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ドイツはケルンのレーベル、kalaoke kalkよりヴィクセルガーランドや、17pictures名義で活動をしている、ヨルグフォラートが、WUNDER名義で1998年にリリースした名盤。もうかなり前の作品なんですが、この作品に関しては、今もこれからも、きっと色褪せることのない美しさを放つであろう魅力が今も作品から伝わってきます。ビリーホリデイ他、古い音楽からのサンプリングなどを用い、ループさせ、さらにその上からサンプリングを重ね、シンセやエレクロニックな加工を加えて行く。ただそれだけなのに、この作品には、まるで偶然の産物かのような、化学反応が生まれ、ノスタルジックかつ、過去と未来が繋がったトンネルに入ったような浮遊感は、まるで夢の中の音楽のよう。やがてエレクトロニカや音響が注目されるきっかけを生んだ名作です。

Lily & Madeleine
『Lily & Madeleine』 (Asthmatic Kitty Records ) 2013
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スフィアンスティーヴンスのリリースで知られる、 Asthmatic Kittyより米インディアナポリスのフォーク・ユニットLily & Madeleineのファーストアルバム。透き通るようなブルーの背景に浮かび上がる、2人の重なり合う姿、このジャケットだけでもエヴァーグリーンな魅力が伝わってくるのですが、そんなジャケのイメージに相応しいふたりの透明感のある美しいヴォーカル&コーラスがフォーキーさと、60~70年代の良質なポップスとともに美しく溶けあい、作品全体から伝わってくる豊かなメロディーに、心ときめきます。ソフトサウンディングな演奏とともに織りなす姉妹の儚げで、しなやかなコーラスワークも良く練られていて、もう何度聴いて、もうウットリなのです。

Sonicbrat
『Slay Me in My Sleep』(KITCHEN. LABEL) 2013
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静かな響きを湛えながら確かな余韻を残す、SonicbratことDarren Ngのピアノ。チェロ、ヴァイオリン、ギター等のアコーステックな楽器を使い紡がれた、まるで日常の一場面一場面の瞬間を切り取ったかのような、身近だけど特別な音楽。印象に残るメロディー、というわけではないんですが、聴かせどころの出し引きが、程良くって、ぼんやりしながら、誰か大切な人にメールを出しながら、読書をしながら、一人思い思いのひと時にそっと寄り添ってくれる音楽です。

Maria Pien
『Malinalli』(MALINALLI) 2014
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屈託のない聡明な歌声が心に残る、アルゼンチンの女性SSW、マリーア・ピエンのセカンド作。アコーステックギターの弾き方りをベースに、前作よりもより飛躍した、彼女のソングライティングと、芯の強い歌声がまっすく伝わる歌心が、たまらなく素敵な作品です。フォルクローレという伝統が息づくアルゼンチンのコスモポリタンなインディーミュージックシーンがひっそり生み出した大切な宝物のようなフォークミュージックです(箔押しのされた表紙に冊子状の48pブックレットには譜面から制作コンセプトの数々、イラストレーション版画、封筒に収まったディスク、ひとつひとつリボン掛けされた贈り物仕様の特別装丁は是非手に取っていただきたい!)。Maria Pienが、ライヴや作品にも参加している、この人も要チェックな、ラウタロ・フェルドマンのプロデュース。

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Carlos Moscardini
『Manos』 (hummock label) 2015
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アルゼンチンの首都ブエノスアイレス在住のギタリスト・作曲家で、ギジェルモ・リソットが尊敬するギタリストのひとり、カルロス・モスカルディーニによる作品集。タンゴとフォルクローレ、ジャズとクラシック音楽が交差したカルロス・モスカルディーニの楽曲含め、誠実に奏でられる演奏からは、ジャンルで括られることのない、彼自身の内なる歌ごころがギターの音色から表れていて、まるで彼が優しく歌っているかのような、とにかく心が落ち着く演奏が何より素晴らしいです。アルゼンチン音楽を知らなくても、その魅力を知る入り口となってくれるはず。書下ろし曲、スタジオ・ニューレコーディング、過去リリースした名作のマスター音源からリマタリング収録した全曲オリジナル/初の日本盤ヒストリーアルバムです。

Radicalfashion
『GARCON』 (flau) 2015
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作品を聴き進めるにつれ、生演奏主体の独創性とメロディアスで抒情的なピアノ演奏、そして実験性が顔を覗かせてくる…と書くと、なにやら難解な作品の印象を与えてしまうのですが、全くそんなことなく、作品の流れに身を委ねることのできる不思議な統一感が素敵な作品。アコーステックの繊細で美しい旋律や重なり、サウンド・コラージュやエレクトロニクスを組み合わせた独創的な試み…という対照的な組み合わせを用いることによっての相互作用がシンプルで優雅な空間のいたるところで楽しむことができる。その試みからは、Radicalfashionの洗練された美意識の高さが伺えます。

Federico Arreseygor
『Detrás de la medianera』 (CUCHÁ! DISCOS) 2014
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カルロスアギーレを凌ぐかもしれないほどの才能の持ち主、ラ・プラタ出身のピアニスト/コンポーザー、フェデリコ・アレセイゴルのセカンド作。クラシカルとジャズ、フォーク、ラテンが一体となった、フェデリコ・アレセイゴルの奏でる音楽。コンテンポラリーなサウンドと溶け合った、シンティア・コリアの歌唱もこの作品の聴きどころですが、収録曲すべてが、甲乙つけがたい魅力で、嬉しさも切なさもすべて、フェデリコ・アレセイゴルの奏でる旋律が寄り添い、日常に感じる心の張りを緩めてくれる。

Melodía
『Diario de viaje』 (Home Normal) 2014
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アルゼンチン人アーティストFederico Durandと日本人アーティストTomoyoshi Date(Opitope / Illuha)の2人によるコラボレーション・プロジェクトMelodiaのセカンドアルバムは、ヨーロッパツアー中や、Federico Durandが日本滞在時にレコーディングされた音源で構成されている。ただただポロンポロンとギターをつま弾き、ピアノを1音1音大事に弾く。そこにはなんの感傷もない。もちろんメランコリックな旋律が聞き手の琴線に触れる…というわけでもない。国も違う2人の音楽家が、異国の地でなんら気兼ねすることなく思い思いに奏でる音で、お互いの心模様をコミュニケーションしているかのよう。そんなコミュニケーションのプロセスの途中で、いくつかの響きが交わる時、なんとも言えない、夢み心地なふわふわっとしたものに包まれてゆく。穏やかで無垢な音たちの戯れが納められた、いつまでも浸っていたくなる作品それが「Diario de viaje=旅日記」です。

Jón Olafsson & Futuregrapher
『Eitt』(Möller Records) 2015
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80年代から活動するアイスランドのベテランキーボード奏者、Jón Ólafssonと、同じくアイスランドのブレイクコア、IDMなどエレクトロニックミュージックシーンで知られる存在になっているFuturegrapherによるコラボレーション作。それぞれが関わってきたロック〜ポップ、エレクトロなジャンルと、この作品で聴かれるアンビエント〜モダンクラシカルの優雅な佇まいとのイメージのギャップに驚かされてしまいますが、時に偏見なく音楽に接する、ということも大切だと教えてくれるようでもあります。ジャケット写真のような、北欧の厳しい冬のわずかなひとときに見せる、波の少ない静寂な海を讃えるかのような、Jón Ólafssonの穏やかに奏でられるアコーステックピアノ。そこに、フィールドレコーディングスやシンセ/エフェクターによるFuturegrapherのアレンジが適度な間の中に、心地よい余韻を与えてくれる。

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