【インタビュー】machinone
ある日、あまりしょっちゅう会う機会のない、仲の良い友達と、久しぶりに奈良市で会うことになった。案の定、話は弾み、まるで夢のような心地よいひと時はあっという間に過ぎて、その日の夕方、奈良駅まで車で送ることに。送る車中での会話もひと段落、もう今日も1日終わりだな~って空気がなんとなく漂う中、それまで何も音楽を流していなかったことに気付く。え~何が入ってたかな?なんて考える間もなくプレイボタンを押すと、アコーステックギターの、親しみと、暖かさに溢れたメランコリーなメロディーが聴こえてくる。その瞬間何とも言えない多幸感に包まれたのを今も鮮明に憶えている。良い1日を象徴した瞬間だった。で、そのたまたま、車のカーステに入っていた音楽が、machinoneの「tokyo」だったのです(発売前のサンプルCD-Rですが)。ではそんな素敵な音楽を作るmachinoneさんのインタビューをどうぞ!
interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
自己紹介をお願いします。
machinoneというプロジェクトをやっています加藤大三です。現在神奈川在住で、幼少時は岩手県の海沿いの町、その後神奈川の田んぼの多いところや東京の西の方などに住みました。
machinone初めてのアルバムリリースおめでとうございます!活動歴は結構ある方だ、とflauレーベルオーナーから伺ったんですが、今回のファーストアルバムをリリースするまで、長く時間がかかったな~って感じですか?
ありがとうございます。Pastel Recordsさんのインタビューもすごくうれしいです。そうですね、実は何年も前にリリースのお話はいただいていたのですが、なかなか満足できる曲もできず、一応完成して聞いてもらったのですが、もう少し良い曲ができるのを待ってという感じになり、ついには4年程時間がかかってしまいました。その後アドバイスもらいつつ、紆余曲折を経て、今回リリースできることになりました。時間はかかってしまったのですが、このタイミングでリリースできて良かったと今は思います。
「Tokyo」は、東京の西側がテーマということでレーベルサイトにも紹介されていますが、このテーマで、作品を作るという流れはどのようにして生まれたのでしょうか?
アーティスト名を『machinone』にしたので、町に絡めて作った方が面白いだろうということになり、Machinoneを始めたのも東京の西の方に住んでいる時だったので、自然とこのテーマになりました。今回のアルバムも街のサウンドトラックということではなく、結局すべてが広い意味での街の中にあると考えているので、なんとなくそうかな、ぐらいに思っていただければ嬉しいです。
楽曲には印象的なタイトルもいくつかありますが、曲と東京の町との関係性について教えていただけますか?何か想像している特定のシーンや場所はありましたか?
半分の曲は実際に6年ほど東京に住んでいた時に作った曲なので、その時の生活や色々な事が、そのまま音楽になったのかなとは思います。でも、この質問を受けて改めて曲名を見直すと、実際にこんな場所や風景があるわけではなく、幻想の部分が多くを占めていました。自分が住んでいた場所は少し駅から遠くて、自転車で少し行くと、緑の多い場所や古くからの街並み、天文台、小川やささやかな森などがありました。そういった実際の好きな場所がベースにあって、さらにこんなだったらという幻想や様々な影響が合わさって、こうした曲のタイトルや雰囲気の作品になったのだと思います。曲名は言葉の響きも考え、色んな言語を使っています。
演奏にはとても牧歌的な雰囲気があり、メランコリックだけど穏やかに包み込む優しさがあるんですが、田舎の風景とはまた違った空気感を聴いてて感じました。この全体に流れるムードについて、ご自身は作品を仕上げる段階で意識している部分はあったのでしょうか?
自然はもちろん好きですが、ものすごく自然が好きかというとそうでもないところがありますし、かといって都会が大好きなわけでもないので、そういうアンビバレントな感覚が作品の雰囲気に繋がっているのかもしれません。質問の答えになっていないかもしれませんが、それぞれの曲は自分の好きな何かに対するオマージュのような面も持っていて、それも含めて作品全体のムードを作り上げていると感じています。
作品にはご自身が演奏した音以外の音、フィールド・レコーディングのような素材も多く聞こえますが、どのような形で作品に入れようと考えましたか?またフィールド・レコーディングについての考えをお聞かせ下さい。
フィールド・レコーディングは5曲のみで、他で聴こえる外の音は演奏を録音している時に偶然入ってきたものでした。ほとんどの曲が宅録で、防音設備があるわけではないので、どうしても録音されてしまうんです。ただ、ここで偶然入ってきた音は神奈川で録音した時のものなので、東京の音ではないんですね。ですが、この録音場所をTokyo Regret studioとして、幻想の中の表現として考えています。Machinoneのプロジェクトとしても、自分にとってもそういった外の音は、音楽の一部として面白く捉えています。
フィールド・レコーディングは東京に住んでいる時に様々な場所で録ったものです。外で録る音も好きですが、今はどちらかというと、楽器と旋律のみでテーマを表現したいという気持ちもあります。
今回の作品には、Danny Norbury、Federico Durand、そして津田貴司というアーティストが参加しています。彼らとはどういう経緯で作品に参加することになったのでしょうか?
レーベルのオーナーの紹介です。紹介してもらう前から愛聴していたアーティストなので、参加が決まった時は本当に嬉しかったです。FedericoとDannyはちょうどアルバムに参加してもらった頃に来日があって、色々と話すことができましたし、津田さんにはトリートメントだけではなく、ミックスや録音の仕方など色々と親身に教えてもらい、本当に感謝しています。個人的には世界選抜みたいなメンバーで、実際のそれぞれの演奏やミックスなどもとても素晴らしく、音をもらった時はすごく感動しました。今後の作品でもまた一緒に曲を作れたらなと思っています。
アルバムのジャケットアートワークはどなたが手がけられたものでしょうか?またどういった意図が折り込まれているのでしょうか?
三宅瑠人さんです。アートワークについては、相談してレーベルにお任せしたのですが、三宅さんいわく「東京という慣れ親しんでいるはずのものでも、machinoneの視点と曲の姿を通して見せられる事で、心地よい浮遊感を味わえたので、その印象からビジュアルを制作しています。」とのことです。表紙と裏、内側で、少し違う雰囲気のイラストとデザインになっていて、それぞれのイラストがアルバムの牧歌的な印象を表しつつ、さらに異なる魅力も足されていて、アルバムにぴったりのジャケットだと思っています。今回ジャケットを作ってみて、イラストや映像とのコラボレーションも色々とやってみたいなと考えています。
ギターはいつごろ始められたんですか?また影響を受けたアーティストを教えてください。
ギターは高校生の頃に始めました。最初は父親に教えてもらっていましたね。色々な人に影響されていますが、machinoneの前にも様々な音楽活動をしていたので、シンガーソングライターの弾き語り、ロックバンドまでたくさんの影響があります。中川イサト、スティーヴ・クラドック、ジョニー・マー、ニール・ヤング、サニーデイ・サービス、シーアンドケイク、モグワイ…この他にもたくさんいます。F.S. Blummのギターを最近生で聞く機会があって、とても感動しました。それからPastel Recordsさんで発見したPablo Ascua、Tom James Scottも好きです。
今後もギターがメイン楽器だとは思いますが、ギタリストという自覚はあまりなく、一番長くやって身近な楽器だからそれで曲を作っている、という感じです。今後は他の楽器主体の作品も作ってみたいですね。
東京/出身地以外で住んでみたいと思うところってありますか?
どんな街にも魅力があるので、世界中どこでも住んでみたいですが、今住んでいるところに雰囲気の良い古本屋がないので、古本屋がある街がいいです。ついでにCD屋と楽器屋もあればいう事なしです。あと海の近くもいいですね。
machinoneさんのクリエイティヴの源ってどこから来るんですか?
前の答えと重なりますが、自分の曲は、音楽やそのほかの様々な好きなものに対するオマージュなんだと感じています。当たり前かもしれませんが、音楽を作る上で、音楽以外のこともすごく大切ですね。
今後の予定について教えてください。ライヴの予定などありますか?
ライブについて予定はなく、準備中です。昔は違うスタイルでやっていたのですが、元々ライブを積極的にやりたいわけではなく、どちらかといえば、自分の曲を誰かに演奏してもらい、遠くから見てたい感じかもしれません。作品については、ファーストアルバムのスケッチをMachinoneのsoundcloudで更新しています。それから『Tokyo』のリミックス集も発表予定です。他の作品の構想中で、一つはデモがかなりできています。テーマのヒントは菖蒲、のろま、Paksuなどです。
最後に、最近幸せだなと感じる時ってどんな時ですか?
小さなことは日々たくさんあるのですが、好きな作家の本を読んでいる時はとても幸せです。