Antonymes「(For Now We See) Through A Glass Dimly」〜懐旧・退廃・枯凋・空想を美しく描き上げたモダンクラシカル作


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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

ウェールズのアンビエント・アーティストであり写真家、デザイナーの顔を持つ、Ian M HazeldineによるプロジェクトAntonymesの通算4作目となるアルバム「(For Now We See) Through A Glass Dimly」が、オーストラリアのHidden Shoal Recordingsよりリリースされました。

2009年に、イングランド北東部ダラムのアーティストDavid Newlynのレーベル、Cathedral Transmissions labelより「Beauty Becomes The Enemy Of The Future」でデビュー。フルアルバムこそ、「The Licence To Interpret Dreams(2011年)」「There Can Be No True Beauty Without Decay(2013年)」4作品ですが、ミニアルバムや、コラボ作品などを含め、これまで数多くの作品をリリースし、どの作品もオススメできる音楽家です。

これまでの作品で、Antonymesの音楽を印象付けていたのが、たゆたうように響く、穏やかにねじられたピアノの音色。シンプルかつ寡黙で印象深い彼のピアノは、特別な派手さや技術で聴かせるものではないのですが、エレクトロニクスや、時折ストリングを含めたアンビエンスとともに、時が止まったかのような静寂を生み出し、Antonymesの音楽から伝わってくる、懐旧、退廃、枯凋、空想…それらが持つ美しさが、ポストクラシカル〜アンビエントのフォーマットで奏でられてきました。また、ヴィンテージ写真を思わせる、ジャケットのヴィジュアル面に関しても、Antonymesの持つ幻想的でいながらもノスタルジー溢れるどこか現実離れした魅力を伝えています。

UKのhibernateよりリリースされた前作「There Can Be No True Beauty Without Decay」は、最初にリリースした「Beauty Becomes The Enemy Of The Future」を再度作りなおしたもので、ピアノ、ストリングスによって、ゆったりと鳴らされるクラシカルなナンバーと、やわらかなノイズを含む、電子音のテクスチャーとフィールドレコーディング、荘厳なシンフォニーがミニマルに降り注ぐアンビエントなナンバーとが交互に交わりあい、厳かな緊張感が生み出す、深い叙情を湛えた旋律が漆黒の闇に広がってゆく…そんな切ない美しさが結びついた素敵な作品だったのですが、最新作である「(For Now We See) Through A Glass Dimly」では、前作にも参加している、90年代のイギリスのロックバンド、オトゥールズのチェロ奏者であったJames Banburyや、トレヴァー・ホーンの設立したZTTレコーズからの作品でおなじみ、The Art Of Noiseに参加していたPaul Morley、Field Rotationとしても作品をリリースしている、Christoph Bergを始め、イタリア・サルデーニャ島の作曲家/ピアニスト、Stefano Guzzettiがミックスで、またマスタリングには、The Sight Belowとしても知られているプロデューサーでありソロ作品もリリースしているRafael Anton Irisarri他、自身以外のゲスト参加の音楽家が多く関わり、ストリングスなど、生楽器を全面に配したサウンドプロダクションや、曲によっては、heliosを思わせるゆったりとしたダウンビートが入っていたり、ジャジーなサックスや、ヴォーカルやポエトリーリーディングなど、今までにないサウンド面で重厚感や起伏があり、これまで築き上げてきた世界観をより濃密なものに仕上げている。

ジャケットの写真のような、かつて人の営みがあった廃墟が、より自然に包括されゆくような、現実離れした空間を美しく描き上げた、モダンクラシカルの作品群でも屈指の作品となりました。


2016-07-06 | Posted in 音楽レビューComments Closed 

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