公園喫茶インタビュー:Masayoshi Fujita

Masayoshi Fujita - photo by Alexander Schneider Photography 01_b&w

interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS) artist photograph:Alexander Schneider

2006年よりドイツ・ベルリンに拠点を移し、El Fog名義での作品リリースや、Jan Jelinekとのコラボレーションでも知られる、Masayoshi Fujita。El Fogでは、ヴィブラフォンをメイン楽器としながらも、ダブ、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカを通過した、唯一無二とも言える、スモーキーで美しい音響空間を聴かせてくれましたが、2013年に、本人名義でリリースされた「Stories」では、アコーステックなレコーディングと、モダンクラシカルな要素が、より作品の世界観を広げ、ヴィブラフォンの可能性を示したものとなった。そして2015年初秋、Nils Frahm、Olafur Arnaldsなど良質なアーティストを輩出するErased Tapesに移り、Masayoshi Fujitaとしてのセカンドアルバム『アポローグス』がリリースされた。

個人的に、信頼する音楽家の一人、Masayoshi Fujitaの新作『Apologues』がリリースされました。前作「Stories」から約3年。今のMasayoshi Fujitaの表現と技術が生み出す、本当にベストな作品が仕上がったと思う。「Stories」での試みをより推し進めた「Apologues」では、ヴァイオリン、チェロ、フルート、クラリネット、フレンチ・ホーン、アコーディオン、ドラムと、これまで以上にたくさんの演奏者が参加していて、よりMasayoshi Fujitaの作曲〜編曲面での魅力を強く感じさせるものとなったし、それが結果的にヴィブラフォン奏者としての充実ぶりがより際立ったものとなっている。今回のインタビューでは、『Apologues(アポローグス)』作品の制作過程や、ヴィヴラフォン奏者としての思いなど、お伺いすることができました。(協力:ERASED TAPES


Interview:Masayoshi Fujita

ArtistPhotoWeb

前回のインタビュー時に「今後、もっと色々な楽器を使った曲を作りたいと思っている」お答えいただいていて、次作のイメージはすでに、藤田さんの中ではできているような感じを受けたのですが、前作「Stories」と 新作「Apologues」のアプローチの違いというものはありますか?

前作は、それまでel fogやヤン・イェリネックとのデュオなどでずっとエレクトロニックな音楽をやってきた中で、どんどんヴィブラフォンという楽器自体に興味を持つようになって、それだけを使った、それまでとは違う新しい事をやってみるという感覚で取り組んだ作品でした。今作は、前作のアルバム制作やその後のライブ活動などを経て、さらに追求していきたいと思った部分を深く掘り下げていったり、その幅を広げてみたりという様な感覚でしょうか。

前作が完成する前から、既に今作の様な他の楽器を使ったアレンジの方向性というのはアイデアとしてありました。実際前作でも2曲バイオリンとチェロを使っていますが、今後のテストというか、試しにやってみようという感じでした。

作曲の仕方自体は曲によって色々ですが、特に今回自分としても新しかったのは、たとえば”Swallow Flis High in May Sky“などはクラリネットの音色から着想を得て作った曲で、曲を作り始めたのはヴィブラフォンパートからでしたが、その時も頭の中にクラリネットや他の楽器の音を聞きながら音を探していくという感じでした。

アルバムタイトルを「Apologues」としたわけは?

今回も表現としてやっている事は前作と同じというかその延長で、音楽でリスナーの中にイメージや情景、物語を想起させるという事なんですが、そのアルバムのタイトルとしては、前作同様「Stories」というのが一番ニュートラルでしっくりくるものだったんです。ただ、同じタイトルをまた使うわけにもいかないですし、何かそれに代わる言葉がないかという事で、レーベルの人とも色々相談してこのタイトルにしました。Apologuesというのは、本来ストーリーにのせて道徳的な教訓を伝えるようなお話の事ですが、そういった意味合いは特にありません。

ブックレットには、各曲をイメージさせるテキストの記載がありますが、アイデアの着想過程において、どういった瞬間に、テキストのようなイメージが湧き出てくるものなんでしょうか?

作曲する時はいつも、ヴィブラフォンを弾きながらふと出てきた良いメロディやコードなどをまた繰り返し弾いて少しずつ膨らませていくんですが、その良いメロディやコードというのが、雰囲気だったり画的なイメージを持ったものである事が多いんです。そういうものを常に求めているというか探していると言うか。なので、最初は聞こえたメロディーやコードからそういったイメージが得られるという感じです。その後、そのイメージや雰囲気を元に別のシーンや短い物語の様なものを想像してそれを音に還元するといった流れで曲を発展させていきます。そういうプロセスの中でだんだんイメージが具体的になったり、曲調を変えることでイメージが少し変わったり、物語に展開が出てきたりという事もあります。そういった音と画的なイメージとのやり取りを繰り返してこねていくことで、だんだん曲になっていきます。

新作には、前作に引き続き参加している、Hoshiko Yamane、Arturo Martínez Steele他に、日本人演奏家が多く参加していますが、彼らとはどのようなつながりで参加に至ったのですか?

色々ですが、皆以前から知り合っていたベルリンに住む友人や先輩方です。例えばクラリネットを吹いていただいた小澤さんは、以前竹村延和さんがベルリンに来られて公演をされた時に演奏されていたんですが、その時聞いたクラリネットの音色が素晴らしくて、特に音色が既に世界観というか雰囲気を持っている感じがして、その時からクラリネットを使って曲を作りたいと考えていました。その時たまたまリハーサルを見学出来る機会があって、小澤さんともお話しできて知り合う事ができ、そういったご縁もあって今回参加していただきました。フルートの鈴木美緒さんも、何年か前に友人を通して知り合いました。彼女自身もソロのエレクトロニック・プロジェクトをやっていてその音も聞いていたので、今回お願いして参加してもらいました。

レコーディングは、 どのような流れで進められたのでしょうか?あらかじめ書かれたスコアに沿っての作業だったのか、それともレコーディング過程でどんどん変化させていったのでしょうか?

レコーディングの時点では、ヴィブラフォンも他の楽器も全て決まって楽譜になっていて、それを渡して演奏してもらうという流れでした。僕は、あまりインプロは得意ではないですし、オーケストレーションも自分の中でハーモニーやメロディーの受け渡しなど色々と細かく練っているので、全て楽譜にして色々指示も出しながら進めて行くという感じです。

作品終盤の”Puppet’s Strange Dream Circus Band “という曲はこれまでの藤田さんの作品にはない明るく祝祭的な楽曲ですよね? テキストではサーカス楽団の記述もありますが、この曲はどういったイメージで生まれてきたものなのですか?

元々この曲は前作にヴィブラフォンソロ作品として収録するつもりだったんですが、録音した自分の演奏が気に入らなかったのと、直前に今回やった様なアレンジのイメージが出てきたので収録しなかったという経緯があります。実はタイトルや物語もアレンジを加えたことで変わってしまったんです。元々は、ひょっこりひょうたん島に出てくるような人形の海賊が船の中で宝探しに出かける夢を見ている、という内容の曲だったんですが、他の楽器を加えていくに従って曲のイメージが変わってきて、今回の様な人形のサーカスと楽隊のイメージになりました。ヴィブラフォン自体のアレンジは変わってないので、他の楽器に引っぱられてイメージが変わったかんじですね。

明るい曲調というのは、自分の中では前作でも何曲か入れたつもりではあります。ただ、el fogではやらなかった音ですね。el fogでは、自分の中である特有のイメージがあって、こういった明るい曲は作らなかったですね。本名名義のアコースティックではその辺のコンセプトが違うので、明るい曲もあります。ただ、雰囲気や世界観がないものは作らないですね。たまに音楽的には面白かったりポップだけど全然画的なイメージが湧かなかったり世界観が感じられないものが出来てくる事があるんですけど、そういうのはお蔵入りになってしまいます。

レコーディング〜ミックスで気をつけたことは?

演奏者の方々に、曲のイメージや物語をお伝えして、曲の雰囲気を理解してもらって演奏してもらうという事は心がけました。他に技術的な事でいうと、マイクをあまり近づけすぎないようにと意識しました。音が近いと、なんというか、演奏者の存在が前面に出てきてしまう気がして、それは聴いている人が曲のイメージに入ってくのを妨げる様な気がするので。この辺りはまだ試行錯誤中です。ミキシングでは、後ろに隠れているけど聴かせたいと思っているメロディーラインや、ちょっとしたフィルイン的な音などがちゃんと聞こえる様にお願いしたりという事でしょうか。マスタリングに関しては、コンプががっつりかかった音圧重視のものは嫌いなので、そうならない様に気をつけました。

ジャケットのアートワークは、森と、湖面に映る森をイメージさせるようなアートワークでもあるのですが、それ以外にもタイトルにも通じる、比喩的な表現として捉えることもできるかな、と感じました。今回、Bernd Kuchenbeiserの作品をセレクトした理由について教えて下さい。

これに関しては、レーベルオーナーのロバートの意見を大きくとり入れました。デザイナーも彼の紹介で、デザイナーの方がいくつもモチーフになる画像を送ってきてくれて、その中から僕とロバートで選んでいったという感じです。僕は割とアートワークとかに関して自分の中ですごくイメージが強くて口を出し過ぎてしまいがちなんですが、ちょっと今回は人のアイデアを取り入れてみたいと思っていました。もちろん、自分の求めるものを細部に渡るまで細かく指示して作れば、それなりに気に入るものはできるんですが、自分の中にある以上のものは生まれない気がして。今回もデザイン考案中はちょっと疑心暗鬼な部分もあったんですが、オーナーのロバートが「これは絶対に良い」と主張していたので、彼を信頼してこれでいく事に決めました。実際に物が出来上がって手に取って見ると、なるほどこれもいいなと思えたので、これも新しい経験でしたね。今回のアートワークは、抽象的で質感のあるところが気に入っています。雰囲気も曲の背後にあるストーリーと合っていると思いますし、見る人によって違った見え方が出来るところが気に入っています。

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様々な楽器が加わっている中で、最初に感じたのが、以前にも増して深みあるヴィヴラフォンの演奏だったのですが、演奏面では、日々どのような部分に注意し練習に取り組んでおられますか?

あはは、そうですか。ありがとうございます。まだまだへたっぴなので、毎日練習するようにはしています。特に基礎的な部分ですかね。僕が他人の演奏を見てこの人上手いなと思う時というのは、すごい速弾きをしたり難しいフレーズを弾いている時ではなくて、例えば四分音符を丁寧に自然に流れる様に弾く時にその人の技術の確かさがにじみ出ているのが感じられたり、楽器が身体の一部になっている様な演奏を見たりする時なので、そういうのを目指して練習しています。あとはどうすれば語る様に、かつ嫌みにならないように演奏できるかというのも曲の練習をする時は意識します。下手な分伸びしろが多くあると前向きに考えていますが、練習すればするだけ上達していくのが分かるので、今はヴィブラフォンを弾くのが本当に楽しいです。

ストリングスなどが入った作品を聴くと、そのアーティストのメインの演奏はなんなんだろう?と時々思うことがあるのですが、藤田さんの作品の場合は、様々な楽器が増えたとしても、ヴィヴラフォンの存在が、常に楽曲の中心で感じることができます。作曲過程においても、ヴィヴラフォンの演奏者と作曲家、両方のバランスは、ご自身の中ではどうあるべきだと考えていますか?

僕の場合は、ヴィブラフォンが常に中心にあります。幸か不幸かこれは揺るぎないものなので。何をするにもそこは外せないんだなというのは、今まで色々な事に手を出してきて分かった事です。色々な楽器を使って曲を作っていると、ヴィブラフォン以外の楽器だけを使っても面白い曲が作れるんだろうなと思う事もありますが、それは僕がする事ではないのかなと感じています。あと、ヴィブラフォンというのはまだ誕生して100年もたっていない比較的新しい楽器で、それを中心に作曲された曲というのはごく少ないので、そういう物をこれから多く作っていけたらという思いもあります。

今回の作品の制作で得られたものは何かありましたか?

色々な楽器を使ってアレンジするという事は手探りでやってきたのですが、なんとか自分でも納得できるものが出来たし、ひとにも気に入ってもらえたので、それは自信になりました。アレンジすること自体とても楽しかったので、今後の可能性も実感出来たのも大きかったです。あと、作曲や演奏の過程で、ヴィブラフォン自体の特性というか出来る事出来ない事も見えきて、より楽器に対する理解が深まった様にも思います。

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今作は、これまでリリースを重ねてきた、flauからNils Frahmや、Peter Broderick、Ólafur ArnaldsらをリリースしているErased Tapesからのリリースとなったわけですが、レーベルを移ることになったのはヨーロッパでの活動が中心となっている現状からでしょうか?

第一には、僕がErased Tapesがとても好きだったからというのがあります。非常に興味深いアーティストが揃っていて、リリースするものもとても好きだったので。もちろん、ミュージシャンとして活動するにあたって、どれだけ多くのリスナーに音楽を届けられるかというのは大事なことですが、そういう意味でもErased Tapesはとてもよいと思っていました。あとやはり、ベルリンに住んでいるので、ヨーロッパの会社の方が色々と都合のよい事がありますし、レーベルの拠点はロンドンですが、ロバートや他のスタッフもよくベルリンに来るので、直接会ったり食事しながら色々しゃべったり相談したりという事が出来るので、その辺は大きいですね。

最後に、藤田さんに影響を受けてヴィヴラフォンを始めたいという方に、何かアドヴァイスがあれば。

そうですねえ、まずは実際の楽器に触れてみて下さいという事でしょうか。弾いている本人にしか体感できない音や振動というのがあるので。なかなか見つけるのは難しいかも知れませんが、例えば市民オーケストラや音楽大学のようなところにはパーカッションの一つとして置いてある事があります。ヴィブラフォン奏者やマリンバ奏者の方にはレッスンをされている方もいますし、探せば色々チャンスはあると思います。あと、いくつかヴィブラフォンが貸し出し用に置いてあるスタジオなどもありますので、そういうのを調べてみるもの手かもしれません。

 

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2015-10-02 | Posted in インタビューComments Closed 

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