【 インタビュー】Lori Scacco(ロリ・スカッコ)〜「Circles」は、私にとって正直で、欠点があり、あるがままなのです。

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interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

2014年も終わろうとする頃、1枚の作品が日本のPLANCHAより再発された。本当に待望の…といってもいいかもしれない。その作品とは、現在NYを拠点とし活動をしている、女性アーティスト、ロリ・スカッコ(Lori Scacco)唯一となるソロ作品「Circles」です。ロリさんの本格的なキャリアの始まりは、かつてToo Pureから作品をリリースしていた、Seelyというバンドでした。アトランタで結成され、1994年にデビュー後、シューゲイザー〜ドリーム・ポップ系バンドとして、一時期ステレオラブとも比較されていたことも。そして、バンド解散後にリリースされたのが「Circles」でした。

オリジナルリリースは、同郷のスコット・ヘレン主宰、Eastern Developmentsから2004年にリリースされていたもので、もう10年以上前の作品になるんですね〜。この作品に流れるフォーキーで、クラシカルな要素も散りばめた(結構先取りしていたんですよね)アトモスフェリックなサウンドは、美しくも儚げで、今聴いてもちっとも色褪せていないのが驚きです。むしろ今聴く方がしっくり来るかも…。本当に聴き手をあまり選ばない、普遍的な魅力を湛えた名作だと思う。

今から10年前といえば、音響〜ポストロック〜エレクトロニカ全盛時。Eastern Developmentsは、主宰者であるスコットヘレンのプロジェクト、プレフューズ73、サヴァス・アンド・サヴァラスの人気もあって、まさに飛ぶ鳥落とす勢い。ダブリーやデイデラス、リマインダーなど、日本でも多くの作品が紹介されていました。なので、てっきり「Circles」も日本で紹介されるのかな?と思っていたのに、実はこの作品、国内盤化されていなかったんですよね〜。今考えるとレーベルのカタログの中でもちょっと浮いた作品だったかもしれませんが。

それでもなんとかようやく、リリースから10周年となる今回のタイミングでの再発。じつは彼女の音楽を愛してやまない関係者の尽力があったからこその再発となったことだけは書いておきたいです(まあ再発というのはどの作品でもイヤイヤ出すもんじゃないんだけど)。それだけこの作品に思い入れをもった方が自分以外にもたくさんいたんだなぁ〜と嬉しくなってしまう。というわけで、現在は、サヴァス・アンド・サヴァラスのメンバーであるEva Puyuelo Munsとのデュオ、Storms(ぜひこちらも聴いてほしい!)としても活動中の彼女に、今だから語れる「Circles」について、いろいろ聞いてみました。

 


Interview:Lori Scacco

まずは“Circles”以前のことをお伺いしても良いですか?Loriさんは、2000年まで、seelyでギター/ピアノを担当されています。seelyの「Julie Only」では、 John McEntireが、そして「Seconds」では、Scott Herrenがプロデュースで参加しています。彼らとの仕事で印象に残っているエピソードは何ありましたか?

当時のことは、両方ともよく覚えています。 シカゴで、”Julie Only”をジョン・マッケンタイアとレコーディングしたことは、本当に素晴らしい経験でした。なにしろ、わたしたちは、トータスの熱烈なファンだったから。レコーディングの最中、彼らはいつもスタジオに出入りしていました。レコーディングを行った、Idful Music Corporationは、彼ら友人たちのたまり場のようなもので、雰囲気も良くって、最高の場所でした。スケボーのビデオをたくさん見たのを覚えています。「Julie Only」でのジョンの関わり方は、かなり控えめだったと思う。わたしたちの作品の中で、”Julie Only”はもっとも加工されていない録音作品です。とてもストレートで、創作という観点から言うと独特な音はありませんね。でも、彼のスタイルが現れた確かな瞬間があります。”Shine”は、スタジオで困難に陥っていた時の曲です。わたしたちは、譜面に書かれたとおりに録音しようと試み続けていましたが、なかなか満足いくものにはなっていませんでした。そこで、私たちは録音したものを解体し、多くのレイヤーを取り除きはじめました。ジョンは、ボーカルのピッチを下げてくれたり。最終的には、「Julie Only」の中で”Shine”は私のフェイバリットな曲となりました。彼の足跡がはっきりと残されています。そして、思い出す限り、”Shine”は、スタジオ作業で、わたしたちが自発的に作り出した初めてのものとなったのです。

スコットは、“Seconds”、そしてわたしたちの最後の作品”Winter Bird”をプロデュースしてくれました。”Winter Bird”は、彼の影響をもっとも聞き取ることができます。彼と私は、いつも堅い友人関係で結ばれ、彼と関係を気付いてきましたので、彼がしてくれたことをとても幸せに感じています。”Seconds”をレコーディングしたとき、わたしたちはルームメイトであり、このバンドのビジネスがどうなっていくのかということに関係なく、お互いにとって良い存在でした。私は、これだけは覚えています。彼が曲に新しい特徴を付け加えることに、毎回、うきうきしていました。特に、”Winter Birds”については、すべてを高めてくれました。

バンドは、「Seconds」〜「Winter Birds」において、サウンドが変わってきていますよね?電子音と生楽器とがミックスされたオーガニックなサウンドの断片は、“Circles”にも繋がっていると感じたのですが、あなた自身の音作りへの取り組みにも変化はありましたか?

“Winter Birds”の作曲しているとき、わたしはギターとフェンダーローズの入れ替えを始めました。キーボードを導入したことで、バンドのサウンドは、確かに大きく変わりましたね。フェンダーローズについては、Seelyの最後のレコードと、私自身の作曲でも使い始め、やがて “Circles”となったものの間にある重要なスレッドです。だからそのことは、私のソロ活動としての原点にもなるのです。

Seelyの解散からすぐに“Circles”はリリースされたわけではありませんでしたが、ソロ作品を制作するまでの経緯を教えてください。

Seely解散から、私はフェンダーローズを試し始めました。その重厚な響きに興味を持ったのです。そして、座って演奏するたびに、まばらで、ミニマルミュージックの断片を手にするようになっていました。私はその響きの虜になっていたのです。そのときスコットは、古いピアノがある家に住んでいて、立ち寄ったときはいつも私がフェンダーローズで試していた小さなピースを演奏していていました。で、ある時、ソロピアノのための曲を心に描き始めました。啓示を受けたのです。そして、スコットが彼のレーベル、Eastern Developmentsとしてまとめてくれたのです。これが、”Circles”が出来上がるまでの経緯です。とても良いタイミングでした。

もともとインストゥルメンタル作品にしようと考えていたのでしょうか?またどんな作品にしたいと思っていたのでしょう?

私は、いつもインストゥルメンタルな作品に興味を持っています。私は、私自身に何ができるのか見てみたいし、それは歌うことではありませんでした。それにソロ以前、私は、いつもグループで演奏するプレイヤーでした。だから、自分の奏でる音や、ソロで活動する道を発見することに、わくわくしていたのです。

“Circles”というタイトルについてはどんな意味が込められているのでしょう?

“Circles”を作曲しているとき、私は、とても重い困難に陥っていました。人間関係の終焉と、再構築を体験しているさなかであり、エネルギーや時間の使い方を変えないといけないと、ひしひしと感じていました。以前は、「cosmic」という言葉をよく使っていたのを思い出します – 9.11直後、確実により大きなスケールで、私の生活で関わる多くのひとびとにとって物事が変化していると思いました。だから私は、お互いの繋がり合う力を、とても強く感じていました。そして、私の心には、異なった点においても、交差するサークルが流れている、漠然としたイメージを、いつも抱いていました。

A Quiet Light from Kane Grose on Vimeo.

個人的に、あなたのギタープレイが好きな曲”Heirlooms”や、”Sketches of Lines in Spiral”などを含め、曲名はどんな背景があってつけられるものなのですか?

ありがとう。 “Heirlooms” は、私のお気に入りの1つです。”Circles”に収録されているすべての楽曲は、過去、現在および未来と関係していて、いくつかのタイトルにも反映されています。その他については、時間における空間について、より言及しています。でも特定のタイトルにはっきりとした意味をあてがうことは、おかしいことだと思っています。だって、漠然と関連しているものですから。直線的で意図的な形式で記すより、無意識の思考の場所にたどり着くことで、音楽を生み出したいのです。だから、私は即興のフレーズをとてもたくさん記録し、それらをカットアンドペーストして再構築しながら曲にします。”Circles”のすべての過程はこのように進めています。作品を全体として思いつくこと、それが、そのようなつながりを成し遂げるための最善の方法ではないかと思っています。ただ正直なところ、今になって、そのタイトルをいくつか読むと、少し恥ずかしくもあります。かなり不器用で、少し気取り過ぎているかもしれません。私は、おそらく音楽自体にこだわって、それらの言葉は他の人に任せるべきかもね。でも、その時点での私の経験の証として、受け入れています。

この作品にはジャズ、エレクトロニック、アンビエント、フォーク、クラシカル…様々な音楽要素がちりばめられていますが、全く散漫な感じはしません。この作品の制作プロセスについてあなたが一番心がけていた点はどういったことだったのでしょうか?

真っ先に、何よりもまず、音色に集中して取り組んでいました。やがてソロピアノの枠を取り払うことを決めました。演奏したい楽器が分かったからです。そして、自然な響きを巧みに扱うことも。これが、”Circles”の方向性を知らせてくれたのです。いずれかの特定のジャンルを考えるよりもね。

聴く者の中にあるメランコリーを喚起するような、フレーズとフレーズの”間”というものがこの作品では絶妙なんですが、あなたはそれを意識していますか?

私が間を意識していることは、たしかです。”Seely”のときも。私が演奏しない時は、いつも意識していました。”Circles”については、間を1つの楽器として、より考えるようになりました。楽観と悲観の概念をひっくり返すという考えを唯一の親密な環境を生み出す方法として、気に入ったのです。いつもコルトレーンの”A Love Supreme” とそのアルバムのその関係の深い構造について、考えています。音楽を作り出す明確な天賦の才能、音楽的センス、そして魂のひらめきに加えて、私にとって、楽器を取り巻く空間はおおきなものです。この作品は、私のお気に入りの1つであり、いつもおおきなひらめきを与えてくれます。

私は、メロディーを決めるための音符やコードの響きの異なる使い方を探求しています。マイクロサウンドを調整することや、倍音を重ることに焦点を当て、多くの時間を費やしました。結果は、とてもかすかなものではあるのですが、本当に多くの注意をこれらのことに払ってきました。はじめてレコードがEastern Developmentsでリリースされたとき、評論家は、それが樹木の内部で録音したようだと言っていました。それを読んで、なにか良いことをしたような気分になったものです。

ジャケットも神秘的な佇まいがあって、素敵ですが、使われている写真のロケーションはどんなところなんですか?

ジャケットのイメージは、私の妹である Debra Scaccoが撮影しました。とても素晴らしいビジュアルアーティストです。彼女がロンドンに住んでいるときに、彼女の住まいと近隣とを隔てているエッピング・フォレストで撮影したものです。

グラフィックデザインを手がけてくれた、私の友人であるPeter Rentzは、Eastern Developmentsのクリエイティブディレクターで、このレーベルのパートナーでした。私たちは、カバーに、彼が描いていた自然主義者のイメージを使おうと話しました。だから、Debraが、エッピング・フォレストを調べに行ったのです。数日間、そこで写真を撮影しようと考えていたみたいですが、森に着いた最初の日に彼女が撮ったのが、この写真だったのです。私たち全員のお気に入りです。

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制作時期は、何にインスピレーションを受けていたのでしょう?

私がしていた曲に似たどんなサウンドも、聴かないことを重視しました。”Circules”に取り組んでいたとき、いつも5つ、6つのレコードを流していました。
John Coltrane “A Love Supreme”
Brian Eno “Apollo: Atmospheres & Soundtracks”
Pharaoh Sanders “Thembi”
Bjork “Vespertine”
Dusty Springfield “Everything’s Coming Up Dusty”
V.A “Dream Babes Vol 1”
“Dream Babes Vol 1″は、60年代の名もないイギリス女性グループの稀少なシングルを編集したもの。

でも、あとから考えたら、作品を作る何年も前に聴いたものが、”Circles”の私のコンセプトに確実に影響を与えています。私は、Mark Hollisの (Talk Talk) にとても影響を受けました。演奏者名が表題になったレコードで、1997年に発売されました。その曲の響きを学んでいたのを覚えています。これは、ソロレコードを作ろうと思いつくよりずっと前のことです。でも、彼のミニマリストの手法と、楽器を取り巻く空間に衝撃を受けました。彼が成し遂られたものの本質は実体的で、その可能性に興味を持ちました。

“Circles”がリリースされてから10年が経ちます。ですが、ここで聴かれる音楽は10年の経過を感じさせることなく、今も普遍的な旋律が流れてきます。ロリさんは、改めてこの作品をどのように評価していますか?

何かを創作するときはいつも、同じ順番の感性の流れを経ます。私は一度録音された断片を愛し始めます。次に、ものすごくあら捜しをし、それに付随するおかしなことをすべて確認しします。でも、最後には、ふたたび、愛し始め(あるいは少なくとも好きになり)、それが時間の証であることを認識します。これらの流れを全て、”Circles”に適用しました。私は、発売開始後、とても長い時間、聴くことができませんでした。でも今は、私にとって、たしかな意味を持っています。正直で、欠点があり、あるがままなのです。

それでは最後の質問です。あなた自身、今だったらこの作品を、どんなシチュエーションで聴きくことをオススメしますか?

そうね、“Circles”を、ロックンロールパーティ使うんだったら、おそらく一番、場違いなレコードよ!朝に聴いてもらったらいいと思う。日曜日の朝なんかとくにね。

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今回、Lori Scaccoのインタビューは、FOUNDLANDでも行われていて、インタビュアーの思い入れたっぷりの、公園喫茶のインタビューとはまた違ったものになっていて(seely解散のことも語ってくれています)、とても貴重で興味深い内容となっておりますのでぜひぜひご覧になってください!

FOUNDLAND:LORI SCACCO – INTERVIEW
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<収録曲>
01. Reeling Then Again
02. Imitation of Happiness
03. A Quiet Light
04. Heirlooms
05. Love’s Journey
06. Sketches of Lines in Spiral
07. Moving Thought
08. Meditation
09. Love’s Reprise
10. Neon in Daylight [Bonus Track]
11. Masks [Bonus Track]

2015年01月19日 | Posted in インタビュー | タグ: , , , , , Comments Closed 

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