ゆるやかな一体感がもたらす奇跡のような調和をとらえた、「虹」という作品について〜いろのみ(ironomi)インタビュー


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interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

自然と寄り添いながら、日々のサイクルの微妙な機微を捉える、柳平淳哉と磯部優の2人によるユニット、いろのみの音楽。それは、人の感情がダイレクトに介在したメロディーとはまた違った、ひそやかに息づく一瞬一瞬を、そっとすくい上げ音に映し出しているようでもある。

彼らは、2007年に、涼音堂茶舗よりファーストアルバム「ironomi」をリリースして以降、2010年まで、STARNET MUZIKや、シンガポールのKitchen.から計6枚もの作品をリリースしている。そのペースは彼らの音楽の持つ、ゆるやかなイメージとは真逆のハイペースさでしたが、Kitchen.レーベルからリリースした「sketch」以降、リリースの便りは、2015年のクリスマスイブまで待たなければなりませんでした。ただ5年ぶりにリリースされた彼らの最新作「虹」は、この5年間の空白を一気に追い越すかのような、計164分CD3枚組にも渡る大ヴォリュームとなっていたのです。

この作品では、様々な音楽家とのコラボレーションが展開されていますが、これからの”いろのみ”としての音楽スタイルに、必要不可欠なものとはなんなのか?そんな問いを彼らが試みて、その成果を聴かせてくれているようにも感じました。あえてゴールを求めず、ゆっくりと時間をかけて人々の心に浸透してゆく”いろのみ”の音楽。「虹」をリリースした彼らに色々と質問を投げてみました。(協力:p*dis

 


Interview:ironomi(Junya Yanagidaira & Yu Isobe)

今回の「虹」は、これまでの作品とは違い、曲ごとに、ゲストの音楽家とのコラボレーションというものを軸に構成されていますが、もともとの作品の出発点については、何か明確な意図があって進められたのでしょうか?

柳平:いろのみの音楽は今まで、ピアノ、ラップトップ、ギターで極力シンプルに作ってきました。
ライブなど活動していく中で、様々なアーティストの方と一緒に演奏する機会があり、いつかその方々とコラボレーションして音楽を作りたいと考えていました。
今回で7枚目のアルバムになるので、7色に輝く、様々な楽器の音が聴こえるアルバムを作ろうと思ったのがきっかけです。

磯部:1つ違う楽器の音色が入る事で、曲の展開や色がさらに発展することができると可能性を感じていました。こういう楽器と合わせてみたいというのもありましたが、幸いにもご縁がある音楽家の皆様とそれが合致していたので、一つの作品にまとめたいと思っていました。

レコーディングは即興とのことですが、即興の持つ魅力をどのように捉えていますか?

柳平:その時々にしか訪れない奇跡が生まれる事だと思います。作曲として作りこんだものは、初日は感動していたとしても、翌日聞いた時に、納得いかない事が多く、その音楽に足したり引いたりしていくと、どんどん作為的になっていくのがあまり個人的に好きではありません。
即興は一番自然体な形で音楽が生まれる作曲方法だと思っています。

磯部:音で会話するような感覚がなによりも楽しいです。そして、その会話の波長のようなものが合ったときに生まれる一体感や身震いするような感動を味わえることです。

柳平さんが参加された、Elintseekerの作品でも感じたんですが、たくさんのゲストと共演することによって、いろのみの潜在的な嗜好や思考をアウトプットする表現方法が、より広がったような気がしました。お二人はこの作品を通じ、どのような成果を感じておられますか?

柳平:それぞれの楽器の持つ魅力や特色もそうですが、やはり参加していただいた音楽家の方々の持つ音楽の世界を、即興演奏を通して見せていただいて、その世界をできるだけ活かすように、こちらも提案していく形だったので、おっしゃる通り、いろのみの世界というより、一緒に見た世界が広がっていたと思います。

磯部:僕たちは、ピアノの即興演奏をリアルタイムにコラージュし、編集を通してひとつの曲に磨き上げていくというスタイルなんですが、今回の様に楽器の要素が増えても面白さや可能性を感じることができ、この作曲手法が自分の中で確立できたような気がしています。その反面、音が多くなってしまったり、この手法の持つある種のマンネリもこれからの課題として感じました。

今回の収録曲の中で、個人的にですが、ピアノとの共演となった中島ノブユキさんとのトラックが印象に残りました。というのも、ピアノの共演自体が、珍しいものですし、楽曲としてお互いの旋律が折り重なる時に、ともすれば、調和が乱れてしまうと、他の楽器の共演以上に、聴き手に散漫なイメージを持たれてしまうと思っていたのですが、その辺りは、聴いていて、お互いのイメージが共有されているな、と感じました。で、前振りが長くなりましたが、このトラックに限らず、レコーディングにおいて、意識されていたことがあれば教えてください。

柳平:中島ノブユキさんは、私達の大学時代の和声という音楽理論の授業の先生でした。先生が授業の合間に弾く即興がとても美しく、それに影響されて私は即興演奏を始めました。先生の素晴らしい音楽に重ねていきたいという気持ちと、寄り添うだけでなく、こちらからも提案したいという気持ちがあって、長い間録音をしました。

先生との共作は夢だったので、最初はとても緊張しましたが、途中から生まれてくる音楽のあまりの美しさに、演奏しながら浸っていました。その夢の時間は涙が出てくるような感じと、静かにずっと鳥肌が立っている感じで、あとは覚えていません。聴いてくださる方々それぞれで感じ方は違うと思いますが、結果的に心地よいものができて良かったと思います。

音楽における調に関しては固定しているので、極端な音のぶつかりはないのですが、即興なので、ピアノの音同士も、ループされる音もたくさんぶつかっています。人によっては調和がとれていないと思う人もいるんじゃないかと思います。見る角度によって違ってくると思うその複雑な感じが”自然”に近いと思い、個人的に納得しています。笑

引き終わった後に、先生が「朝靄みたいな感じ」とおっしゃったので、曲名にしました。私も同じようなものをイメージしていたので、嬉しかったです。

磯部:僕の方はとにかく音のバランスを大事にしながら、ピアノとゲストの即興を壊さずにより発展できるタイミングでプレイバックすることを意識していました。

ご無理なことをお願いするのですが、今回の収録曲について、参加された音楽家とのレコーディングのことや、ちょっとしたエピソードなど、どんなことでも構いませんのでコメントをお願いしたいです。

ちゃんと振り返るととても長くなってしまうので、短めに。

風草 (Feat. 沢田穣治)
レコーディング中、目を瞑ると、音の圧を感じました。
長いレコーディングでしたが、沢田さんはずっと切れる事なく色々な音を生んでくれて、凄かったです。

茜空 (Feat.今西玲子)
絶対にハマると思って用意していた調でレコーディングを開始し、何曲が録ってみたのですが、なにか納得ないかず、休憩をして、最後に全然違う調で力を抜いてレコーディングを開始したら、この曲ができました。

水藻 (Feat. hofli)
水の音を使ったレコーディングで、とても小さい音を収音するので、神経を集中して耳をすませました。ループされた水音が気持よく、ずっと浸っていたい感覚でした。

紫陽花 (Feat. ASPIDISTRAFLY)
この曲だけは、即興で演奏したものを送り、音を入れてもらって、編集するという事を繰り返しました。初めての歌ものだったので、良い経験になりました。いつか歌ものだけのアルバムを作ってみたいです。

光旅 (Feat. haruka nakamura)
harukaさんはこの時心身ともに良くない状態でしたが、
一音一音大切に奏で、生まれた音楽は希望に溢れていて、素晴らしかったのを覚えています。

舟月 (Feat. ARAKI Shin)
とても小さい音をループし、ノイズの音も上がった音世界の中で、サックスを吹いていただきました。なんともいえない渋い音で、深く暗くて気に入っています。

睡蓮 (Feat. Rie Nemoto)
大学時代からよく一緒に演奏をしていた仲間なので、ほとんど説明はいりませんでした。
ずっと形にしたかったので、美しい旋律がたくさん出てきて嬉しかったです。

楓 (Feat. Coupie)
東北に行き、レコーディングをしました。
ギター3本でも、とても調和がとれていて、
東北の独特の空気感が録れて良かったです。

朝靄 (Feat. 中島ノブユキ)
夢が叶って良かったです。
夢の一時でした。

碧空 (Feat. 内田輝)
内田さんのスタジオで録音しました。
ピアノはアップライトだけど、とても良い状態で、
近くで工事をしている音も気にならず、海を眺めているような時間でした。

箒星 (Feat. 沢田穣治)
出せる限りの音を全て振り絞ったような、音数が多い曲ですが、
星の複雑さを見ているようだと思っています。

日向 (Feat. haruka nakamura)
レコーディングしながら、音楽の暖かさを感じていました。
優しい音楽にしたいと思いました。

ジャケットのホログラム箔が、まるで水たまりに映る、虹をイメージしているようですが、実際は何をイメージされたものなのでしょうか?

ジャケットの色が曇り空。空から雨が落ちて、水たまりを作り、晴れた空によって虹色に輝く。というイメージです。

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今回3枚組ということで、セールス的にも難しいとされるリリースだと思いますが、そのことについては、レーベル側(KITCHEN. LABEL)からは何か意見はありましたか?

なにも言われませんでした。笑
確かにセールスなどを考えたら、1枚ずつ出した方が良いのでしょうけど、商業的なものを考えず、一つの作品として納得できるところまで突き詰めていきたいと思いました。一緒に音楽を作っていった方々との曲を編集していくと、1曲1曲が長くなって、3枚組になってしまう事を嬉しく思いました。Kitchen.に相談すると何も言われなかったので、「虹」という奇跡の作品を作りたいという気持ちが何も言わずに共有されていて嬉しかったです。

作品から少し離れるのですが、お二人についてお聞かせください。それぞれ、お互い出会った時の印象と、今はどういった部分が変わったな、と感じられますか?

柳平:我々は大学で知り合いピアノを専攻するもの(柳平)と、コンピューターでプログラミングして音を解析するもの(磯部)とで、磯部が音楽室で音をループさせていて、偶然遊びに来た柳平が、ピアノを弾いたら、良い感じにループしていろのみのスタイルができました。互いに性格は全然違うけれど、音楽観に関しては信頼し合っていると思います。私はこだわりが強いので、あまり人に任せられない部分もあるのですが、音の膨らまし方、編集に関しては磯部のやり方が素晴らしいし、互いの細かい音のこだわりも一致するので、安心して任せています。私が横で口を出して、うまくまとめてくれます。出会った頃と、そんなに変わらないと思います。

磯部:出会った当初は彼はラッパーだったので(笑)、ちょっと距離を置いていました。でも音楽の趣味がとてもよく合うので、在学中は音楽やDTMの話ばかりしてました。今は色んな面で落ち着いてきたなと思います。

制作のインスピレーションはどのように得ていますか?

柳平:自然の現象からです。自然が持つ力。例えば、星の光の大小、雨も個性がありますし、風にも強弱がある。朝の光の増し方や、季節ごとの雲の風景。そんな自然というものを、音楽で模倣するというのがテーマです。できるだけ力を抜いて、風景を描くように音楽を奏でるという事を意識しています。

磯部:インスピレーションは柳平が弾くピアノからと、それぞれの季節がもつ雰囲気のようなものや自然のゆらぎです。

お二人はどのような部分で影響し合っていると思いますか?またそれは、「いろのみ」の音楽にどのような形で表れていると思われますか?

柳平:いろのみとして、ピアノを弾くと、音が広がっていく。ピアノソロではできない無限の可能性を感じています。今では音をループさせる技術は珍しくないですが、そういった技術的な事ではなく、音を広げて自然を描いていくという感覚が似ていて、同じ方向を向いていて、そうやってたまたまできていったものが、いろのみの音楽だと思います。

磯部:性格的には結構正反対なのかもしれませんが、逆にそのバランスがいろのみには良い結果をもたらしていると思います。

最後に、「虹」という作品を、どのように聴いて、感じでもらうことを望みますか?

柳平:聴いていただく方それぞれに、それぞれの風景が思い浮かんでいただけたら、また過去の記憶と結びついて、そんな時間に浸っていただけたら嬉しいです。

磯部:雨が降っている時、陽が差している時、夕暮れ時など生活の風景の中で、それぞれ合う曲を感じながら少しずつ聴いて頂けたら嬉しいです。


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2016-02-11 | Posted in インタビューComments Closed 

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