Kristine Barrett「The Spirits in my Blood Sing to me at Night」~繊細で洗練された美しさと、カオティックな高揚感が生み出すスピリチュアルな音楽

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

 

昔は、何も思わなかったことが、今、自分の中でしっくりくる、ということがある。Kristine Barettの作品「The Spirits in my Blood Sing to me at Night」は、2年ほど前にリリースされていた作品ですが、その内容の素晴らしさ、その他リリースしている作品も含め、クオリティーが高く、なんでもっと早く気づかなかったんだろう、と歯がゆい気持ちも込めて、ここで取り上げた次第です。

彼女の作品をじっくり聴いてみたいと思ったきっかけが、スウェーデンのレーベル、Nosordoがリリースしたコンピレーション「Tachan」を偶然、部屋の掃除をしていた時に見つけたことでした。このコンピのリリースは2005年、実に10年も前にリリースされたものなんですが、そのコンピに収録されている、Ljudbilden & Pilotenというアーティストが好きで(今はどうしているやら)、コンピを見つけた際に収録されている曲が無性に聴きたくなって、久しぶりに作品を流してみたというわけです。

普段ならLjudbilden & Pilotenだけ聴く、という感じだったんですが、その日は、最初から流して掃除をしてたんですが、1曲目から妙に気になるサウンドに掃除の手が止まるわけです。古いレコードからのストリングスのサンプリングのループに、途中からチャカポコとパーカッションが入って来る。そしてそのリズムに合わせ、ギターを弾き、Kristine Barettの民族的でオペラ風な歌唱が響く。これが徐々にヴォーカルが折り重なってゆき、最後は、ギターを掻きむしりながらKristine Barett単独の歌唱で終わる。それが、3分未満の短い曲”Marie Rosa”なんですが、一通り聴いた後、この人じつはヤバいかも!なんて勝手に盛り上がっちゃってました。調べてみると、「Tachan」の後、1枚のミニアルバムに3枚のアルバム作品をリリースしていて、しかもそれらすべて甲乙付けがたい素晴らしい内容…。

Kristine Barettは、カリフォルニア在住の、ビジュアル・アーティスト(アートワークも彼女のもの)、作曲者、ヴォーカリストで、カンサスシティ美術大学で、写真撮影/ニューメディアと美術史の学士を取得したあと、ニューヨーク州立大学バッファロー校で、トニーコンラッド、ミルズカレッジでは、フレッドフリスの教えを受けています。ここではリリース作それぞれ1枚ずつ紹介していると大変なので、ここでは、2013年リリースの最新作「The Spirits in my Blood Sing to me at Night」に絞りご紹介。

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彼女の音楽の特徴として、東欧、北欧そしてブリテン諸島の伝統と、ポストクラシカル、ロック、フォーク、ミニマル、即興が絡み合いながらも、伝統と洗練が入混じったサウンドに、力強くも深遠でミスティックな、Kristine Barettのヴォーカルが生み出す壮大オーケストラルサウンドが特徴。たっぷりと時間を使いじわじわと聴く者を圧倒するような・・・という流れなんですが、聴いている感覚はちょっと違ってて、ものすごくスピリチュアルで、清澄な歌声も相まって、これがとても浸れるんです。たとえば、アニマルコレクティヴとか、ジャッキー・オー・マザーファッカーとか、フリーフォーク系の作品にも近い長尺でカオティックな高揚感を含んではいるもののその反面、とても繊細で洗練された美しさも織り込まれていて、聴き進めると優しさに包まれた感覚になってくる。

とても崇高な響きで聴くものを癒してくれる”Tsintsqaro”や”Molly Malone”、美しいピアノが優しく奏でられ、徐々にギター、ストリングスが入ってくるポストクラシカルサウンドと、まるでジュリアナ・バーウィックが、アラビア風に歌い上げたかなのような、エモーショナルな歌唱を聴かせてくれる”The Memory Of Death”などを始め、アルバムからは、東欧〜北欧などヨーロッパのムードが香る、良い意味で、宗教的〜根源的な精神性を押し付けられるものではないところが好きです。

Tsintsqaro from Kristine Barrett on Vimeo.

それは彼女によるアートワークにも通じていて、とても手の込んだ、幾重にもレイヤーを重ね合わせたかのような淡い美しさと繊細な描写は、音楽とも本質的な繋がりをもっているのがこの作品を聴いていてよく伝わってくる。音楽も素晴らしいけど、ビジュアル・アーティストとしてのKristine Barettも相当な才能と技術を持ちあわせたひとなので、ぜひKristine BarettのWEBサイトで作品を見ていただき、Kristine Barettの崇高な世界観に浸っていただきたいです。

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▼Kristine Barrett WEB SITE
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2015年10月16日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , Comments Closed 

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