Vashti Bunyan「Heartleap」〜柔らかな幸福に包まれた”ラストアルバム”


YAIP-6030A

text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

Vashti Bunyan(ヴァシュティ・バニアン)の新作がでた!やっぱりこの人の佇まいは時代が変わっても特別な存在だな〜と思う。かつて、フリーフォークという言葉が少し盛り上がった頃があったのを覚えていますか?ちょうどそのプチブーム前の2000年に、あのブリテッシュフォークの幻とも言われた作品「Just Another Diamond Day」が、まさに”発掘”されたのでした。まるで時代がこの作品に呼応するかのように、ネオフォークのムーブメントが広がっていったのが今では懐かしいです。

1970年に発表されたこの作品は、ニック・ドレイクフェアポート・コンヴェンションインクレディブル・ストリング・バンド等を手がけた、ジョー・ボイドのプロデュースで制作、ヴァシュティがRobert Lewisとともに馬車でロンドンから、スコットランドのインナー・ヘブリディーズ諸島にあるスカイ島などを巡る1年半に及ぶ旅(ドキュメンタリー映画「From Here to Befor」でも紹介されています)

Vashti Bunyan, From Here To Before from Chris Hall on Vimeo.

が歌になって綴られた、今でこそ珠玉の名作として評価されている作品なんですが、発表当時は、音楽誌含め評論家などから酷評を受けることになったのです。自分の作品を聴いてもらうことで、聴く人を憂鬱にさせていると思い込んだ彼女は、とても傷つき、それからは30年以上もの間、音楽とは縁のない人生を送っていたのでした。状況が変わったのが、90年代に彼女が、インターネットを利用し始めたときに、自身のかつて30年以上も前にリリースしていた「Just Another Diamond Day」が話題になっていることを、見つけたことがきっかけでした。

今でこそ、誰もが聴ける名作となっていますが、私自身もこの作品の存在を知った頃、オリジナル盤は超プレミアムで、出てきたとしても6ケタはゆうに超えるという、とてもじゃないけど聴きたくても聴けない幻の作品だったので(いまでこそネットでのストリーミング試聴なんかできるけど当時のネットのスピードたるや)、少ない情報を手がかりに、頭の中で勝手に「Just Another Diamond Day」のイメージを思い浮かべ、聴いたことのない彼女の歌声を妄想しながら悶々と過ごしていたのを思い出します。そして2000年に入りようやく手に入れたわけなんですが、「英国」のフォークというガチガチ伝統的なイメージとは違った「非トラッド系」の、ノスタルジックな中に親しみやすさのある、少し憂いのようなものとドリーミーさが調和した、想像以上の妖精のような、まるで傍で優しく語りかけてくれているかのようなヴァシュティーの歌声にすっかり心癒されたものです。

そこから、あまり知られていないけど、イギリスのバンド、ピアノ・マジックの作品「Writers Without Homes」(2002年作)のレコーディングに参加します(”Crown Of The Lost”という曲です。また翌年にリリースされた「Saint Marie EP」でも2曲に参加しています。EP収録の2曲は、現在、Second Languageからリリースの「Heart Machinery (A Piano Magic Retrospective 2001 – 2008)」で聴くことができます)。さらにアニマル・コレクティヴのEP「Prospect Hummer」に参加したことで、ファット・キャットとつながり、そして契約することになります。さらに同じレーベルアーティストの、ポスト・クラシカルのアーティストとして高い人気を誇るマックス・リヒターや、Devendra BanhartJoanna Newsomとの出会いの中で作られた彼女のセカンド作「Lookaftering」(2005年作)は、フリーフォークブームに呼応した、象徴的な1枚となったのは間違いないところです。そして相変わらずの前置きが長くなりましたが、「Lookaftering」より9年後、彼女の新作が届けられたのでした。

じつは今回の作品は”ラスト・アルバム”ということで、なんだか寂しい気持ちが先に来てしまうのですが、じつのところ、前作もラスト・アルバムとしてリリースされたみたいなんですね。なので、また機が熟したら…なんて思うんですが、今回の作品は、これまでの前2作と違って、ヴァシュティ自身のセルフ・プロデュース作品となっていて、それだけで音を聴かずとも、これまで以上に、音楽家としての並々ならぬ意欲と覚悟が漂ってきて、もうこれで打ち止めにしようとしてるのかな?的な感傷を感じてしまいます。

とまあ、そんな気持ちで聴いた訳なんですが、実際の音楽の方は、そんな思いも忘れるくらい幸せな気持ちにさせてくれる美しくあり、そして優しい作品です。前作「Lookaftering」もとてもすばらしい作品だし、そのときに出会った最高の音楽家が集い、彼女が再び歌うことを祝福しているかのような作品ではあったのですが、この「Heartleap」には、セルフ・プロデュースらしく、より彼女の存在が身近に感じれる、自分だけのひとときを慈しむように作られた作品のように感じられます。彼女の子供たちは、それぞれ独立し巣立って行った中、部屋を改装し作られた彼女の自宅スタジオで、まるで、60年代のかつて、自身が一人の音楽家として音楽と向き合ってきたあの頃の心持ちと、これまでの歩みを経て再び音楽と向き合える喜びが交錯した中で、一人、何ら束縛を受けることなく取り組み、作り上げた「Heartleap」。アルバムに収録されている”Mother”の歌詞を読んでいると、そんな彼女の姿がダブって伝わってくるよう(ぜひ国内盤の対訳をご覧になって聴いてみてください)。

“「Just Another Diamond Day」よりもっと前の、本当に初期の録音物に近いものにしたいと思いました。”と資料に彼女の言葉が書かれていたのですが、確かに、ここには、著名なプロデューサーが連れてきたミュージシャンはほとんど参加しておらず、「Lookaftering」をリリースした後に行ったツアーにおいて、サポートしていた、ガレス・ディクソンとジョー・マンゴーや、前作にも参加していたDevendra Banhartや、Andy Cabic、そしてFiona Brice、Ian Burdge、Gillon Cameronらストリングスの面々がそれぞれ参加しているくらいです。曲によっては彼女だけの演奏もあったり。ただ、不思議と、「Just Another Diamond Day」で感じた夢見心地な佇まいは、この「Heartleap」にもあるんですよね。

どこかこれまで、彼女の作品で聴かれる独特の浮世離れした雰囲気や佇まいは、ジョーボイドやストリングスアレンジのRobert Kirbyの力、時代性、バックの卓越した演奏家たちによる部分による所も大きいのかなと思っていたのですが、これを聴いてそれだけではなかったんだな〜と。特に派手な演出をしている訳でもなく、キャッチーなメロディーラインがあって心に残る…というようなタイプでもなく、サウンドは極々シンプル、歌は淡々としている…なのに聴き始めると、すぐに彼女の世界に包まれてしまう。たとえば、母親が、子供に寝かしつけるときに歌う子守唄のような(実際、私の2歳と5歳の息子2人と一緒に聴いていたら、10分も経たないうちに、すやすやと寝ていたのには思わず笑っちゃいました)、時代の流れというものとは全く別次元のところで、人のぬくもりが伝わってくる、柔らかな幸福に包まれた、”ラストアルバム”。ジャケットのアートワークは前作に続き、ヴァシュティの娘であるWhyn Lewis(ウィン・ルイス)が担当しています。ちなみにウィン・ルイスは前述のピアノマジックの「Saint Marie EP」のアート・ワークも手がけているんですよ。

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■ アーティスト:Vashti Bunyan
■ タイトル:Heartleap
■ レーベル:Yacca(国内盤)/Fat Cat Records
■ 品番:YAIP-6030
■ ジャンル:フォーク
■ リリース年:2014年

<収録曲>
01. Across The Water
02. Holy Smoke
03. Mother
04. Jellyfish
05. Shell
06. The Boy
07. Gunpowder
08. Blue Shed
09. Here
10. Heartleap

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2014-11-03 | Posted in 音楽レビューComments Closed 

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