【インタビュー】Federico Durand~私の音楽は本当にシンプルで、それが唯一自分のできることなのです。

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アルゼンチンのアーティスト、Federico Durand(フェデリコ・デューランド)が今年春、「Stephan Mathieu、Taylor Deupree、Federico Durandジャパンツアー」として初めて日本やってきた。2010年にspekkからリリースされた「La siesta del ciprés」がリリースされた際の、取引先からのインフォに、「昼寝のための音楽集」という、何ともユル素敵な紹介が気になってオーダーして以降、彼の作品を毎作、欠かさず追いかけいるのですが、そのどれもが、「あーこれいいよなぁ~」と思う、理想の心地よさをいつも、今も届けてきてくれている。

彼の音楽はいわゆる、アンビエントという括りの中で紹介されています。もちろんそれであっているのですが、彼の場合、電子音楽の抽象的な表現スタイルの中で本当に、魂が浄化されるような、まさに天上の響きを聴かせてくれます。またその反面、とてもパーソナルなぬくもりも同時に感じたりして、一体どんな人が作っているんだろう?と思っているなかで、フェイスブック、ツイッターを始めてからほどなく、彼から連絡が来るようになった。僕は英語が得意ではないのですが、彼の文章からは不思議と優しさを感じるところがあって、送られてくるメッセージには、いつも作品を紹介してくれることへの感謝が綴られていました。

そういう経緯もあって、まだ一度も会っていないのに、まるで昔からの知り合いのような感覚の中、来日を心待ちにしていたのですが、そんなアーティストは、彼が初めてだし、京都での公演ではじめて会った時の喜びは、これからも忘れないだろう。彼は、ものすごくシャイですごくあたたかな、音楽での印象そのものの人でした。ほどなく感動を共有し合ったあとに、インタビューを申し入れ、快く応じて頂き、今回の掲載となりました。また今回ツアーを企画された、Kualauk Tableより、「Stephan Mathieu, Taylor Deupree, Federico Durand来日ツアー」より、鎌倉光明寺でのライブ録音作品4トラックの音源が販売されております。ぜひライブ音源配信のコンセプトと併せてチェックして頂きたいです。

interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

 

まず、今年春に初めての日本ツアーを行いました。あれから時間が経ちましたが、あなたが体感した、日本についての印象、思い出などお聞かせください。

それは私にとって素晴らしい経験でした。長い間このツアーができることを願っていて、ついにあなたの国に訪れる機会ができ、とても幸せを感じました。私は日本の文化に対して色々とシンパシーを感じています。本当に尊敬するたくさんの音楽家の友達がいますし、私は日本の詩が好きで、陶器や庭園、絵画などのような他の様々な表現も大好きなのです。子どもの頃、日本の切手を集めていたんです、郵便の絵画が一番最初に私の人生に日本の美しさを教えてくれたんですね。

ステファン(Stephan Mathieu)<注1;下記参照>、テイラー(Taylor Deupree)<注2;下記参照>との共演はいかがでしたか?また彼らはどんな人物でしたか?

TaylorとStephen、そして日本で出会った他のアーティストと一緒に演奏する機会を持てて、とても幸せを感じました。StephenとTaylorはとても寛大で才能のある音楽家です。私は彼らと、友人と会話をするようにシンプルに自然に音楽を奏で、たくさんの冒険をしました。

一緒に旅行し、京都の庭園を訪れ、コーヒーを飲み、音楽を演奏する。一度Taylor、Corey Fullerと東京の街を夜に彷徨い、私たちは本当に小さなとても特別な場所を発見して、そこでコーヒーを飲んでいたんです。私は自分がとても尊敬しているMaher Shalal Hash Bazの工藤玲子のことを彼らに教えて、彼女の音楽について話していたら、突然バーのマスターがそれを演奏したんですよ!バーの人は彼女の友達だったんです!その後マヘルのメンバーがやってきたんですけど、、、私たちはその偶然を信じられませんでした、それは奇跡でした。彼はTaylorのレーベル12Kと彼の仕事をすでに知っていて、とても幸せでした。幸いなことに私はspekkから出した最新作を2枚もっていて、私は彼に1枚を、そしてもう一枚を彼女、工藤玲子のパートナーにあげたんです。私たちはその場所を笑顔で後にして、この出会いに魔法を感じながら何も話さずにタクシーに乗りました。私はTaylorが嬉しそうだったのを近くで感じたのを覚えています。彼はとても音楽的で映像的な人です。いつも写真を撮っています。彼の音楽とレーベルはとても美しい。私は彼の「Faint」というアルバムをお薦めします。それは雨の日に休息を取るために特別な音楽です。

Stephenに最初に会ったのはブエノスアイレスです。彼は彼女のCaroとアルゼンチンのアーティストと一緒に3年前にコンサートをしたんです。Stephenの音楽は美しく、コンサートの後に話ができました。その後ダテトモヨシと私は彼のSaarbruckenにある美しい家に行き、彼は蓄音機と78回転のレコードを聴かせてくれたんですが、(一部はすごく貴重な)魔法のような時間でした。私たちがもう一度日本で会った時私たちは親友となっていました。彼はジェントルマンでトモヨシは彼のことを「マスターオブサウンド」と呼んでいます。私たちは特別な時間を一緒に過ごしました。鎌倉で私たちは12世紀に建てられた石庭と美しい木々のあるお寺で演奏したのを覚えています。その場所の周りを散策し、鎌倉の音を聴いて、忘れられないコーヒーを飲みました。私は彼の最新作の一つ「The Falling Rocket」をお薦めします。それは自分にとって音の非常に純粋な経験でした。TaylorとStephenは素晴らしい人達です。

注1)■ Stephan Mathieuhttp://www.bitsteam.de/

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独ザールブリュッケン在住の音楽家、美術講師。90年代にはSTOLのインプロドラマーとしてKITTYYO等からリリース。その後、ソロ活動に専念。Hapna、HEADZ、Ritornell、Lucky Kitchen、Fallt、Orthlorng Musork、Cronicaなど世界中のレーベルからリリース。またEkkhard EhlersやJohn Hudakともコラボレーション作品を発表。とりわけFULL SWING名義でOrthlorng Musorkからリリースした『Full Swing Edits』(2001年)は、彼のドラムをDSP処理でリアルタイム加工し断片化させたもので、当時画期的なその手法は高い評価を得た。さらに2008年に短波ラジオのリアルタイム・プロセッシングをテーマにした『Radioland』は、英国の名門ショップBOOMKATが選ぶ2008年のトップ100レコードの栄えある第一位に選ばれた。2012年から重量盤LPのみをリリースする自身のレーベルSchewangを始動し、アナログサウンドへの飽くなき追求は止まることを知らない。現在David Sylvian、 Fennezと豪華トリオ「The Kilowatt Hour」を始動させ世界中で話題を集めている。まさに2000年代以降の電子音楽家として最重要人物となっている。

注2)■ Taylor Deupreehttp://www.taylordeupree.com

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1971年生まれ、ニューヨーク在住。サウンドアーティスト、グラフィックデザイナー、写真家として活動。1997年1月1日、デジタルミニマリズムと現代様式に焦点をあてた音楽レーベル12kを設立。現在世界で最も影響力のある電子音楽レーベルになっている。Ritornell/Mille Plateaux、Raster-Noton、Sub Rosa、Fallt、Audio.NLを含む、数々のレーベルからリリースを続け、過去11年の中でInstinct Records、Caipirinha Music, Plastic City、Disko B、Dum等のレーベルからもリリース。Prototype 909、SETI、Human Mesh Dance、Futique(1992-1996)など過去のテクノ・アンビエントのプロジェクトを含め、多くの評論的賞賛と評価を得ており、時代を代表する音楽家として確固たる地位を築いた。また、デザインワークは世界中の多くのレーベルの作品で見ることができ、日本やイギリスの数々のデザインブックにも掲載されている。近年は坂本龍一との作品が話題となり、日本でも人気の高い音楽家である。

ところで、盟友でもあるTomoyoshi Dateから、あなたが最も好きな音楽家は、Popol Vuhと聞きました。どの作品がお薦めですか?

私はPopol VuhがWerner Hrzogの映画のために作った音楽が大好きです。フェイバリットは「Herz Aus Glass」のサウンドトラックです。映画のいくつかのイメージ、恐らくsuper 8で撮った映像はPopol Vuhの音楽とHerzogの秋と光についての言葉と完璧にマッチしていました。

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音楽について触れる前に、あなたの住んでいる街のことについてすこし聞かせてください。ジャパンツアーのインフォではMuniz在住とありましたが、どんな街ですか?

私は子どもの頃からずっとMunizに住んでいました。子どもの頃、通りは舗装されておらず、たくさんの木や私たちが遊ぶことのできるたくさんの空き地があったんです!家の近くは以前大きなウィンターガーデンでした。私は祖父母の家に何年も住んでいました。この家には松やオレンジ、タンジェリンの木のある庭があり、そこで鶏を飼っていてました。4歳の時に私は空き缶やおもちゃのギター、HITACHIのカセットレコーダーで音楽を作り始めました。私は祖父母の家でとても幸せでした。たとえ他の場所にいたとしても私はそこにいるんです、なぜならMunizは控えめで素晴らしい本当の場所で、私の心に在るのです。

あなたの最初のフェイバリットな音楽体験は何でしたか?

子どもの頃、私はその辺にあるものと弦とで音楽を作り始めました。私は2歳上の兄Marianoと5歳の友達Andreaと一緒にバンドのようなものをはじめたんです。私はおもちゃのSAZ(トルコやイランに普及する撥弦楽器のおもちゃ版か?)と鉄琴、ギターをやり、アンドレアはおもちゃのギター、Marianoはその辺に転がっている魔法のオブジェクトを演奏しました。unnamed

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10代の頃はどんな楽器を演奏してましたか?

ベースが最初でした。でも私は何も音楽の教育は受けていません。

おそらくほとんどの音楽家のスタートは、アンビエントミュージックじゃない場合が多いと思うのですが、あなたの場合はどうでしたか?

先ほども話した通り、私は何も音楽の教育は受けていません。ただ、私が音楽の技術を持っていなかったとしても、あらゆる楽器が好きで、それを直感的に自由な方法で演奏します。音楽について最も好きなところは、だれもが完全に自由になる場所を持てるからです。私は、楽器を手にしたら、それを自分のスタイルで演奏する方法を見つけていきます。だから、私自身は音楽のスタイルとして、アンビエントを選んでいる、というわけではありません。私の音楽は本当にシンプルで、それが唯一自分のできることなのです。

最初のアルバムと、最新作「El Estanque Esmeralda」は、日本のspekkからのリリースです。リリースの経緯を教えて頂けますか?

spekkは私のフェイバリトレーベルの一つです。Nao Sugimoto、レーベルオーナーの彼はとてもセンスがある人です。彼は私にもう一度リリースをしないか尋ねてくれて、(そうです、最初のアルバムはspekkから出ています)私はとても幸せでした。なぜならspekkの最新のリリースは私にとってfestのようなものなんです/ほとんど全てのカタログを持っていますよ!“El estanque esmeralda” (エメラルドの池)は私が祖父母と一緒に南に行った旅行からインスピレーションを受けて作った作品です。何年も後に私は妻のLuciaとブエノスアイレスの装飾美術館のカフェ(注;おそらく国立装飾美術館内にあるCroque Madame<クロックマダム>のことかと思います。)で会いました。そこには葦や白い百合の観賞用の池があります。エメラルドの池の蕎麦でで水と植物を探している時に 私は突然子どもの時の記憶の非常に鮮やかな印象を思い出したんです。私はそれが私の作りたい音楽のための美しいテーマだときめたんです。記憶と音が魔法のように一緒になって音楽として突然表れたのです。

作品にはいつもなにかしらテーマがありますよね?私が最初にあなたのことを知ったのは「La siesta del cipres」でした。軽い眠りという意味のタイトルに魅かれたのですが、アルバムを作る前にあらかじめテーマを決めて制作しているのですか?

アイデアと音は一緒にうまれます。「La siesta del cipres」について話すと、私が若い頃、たくさんの紅茶のブレンドを作っていて、眠る前にそれを飲み、ベッドに横になって音楽を聞くのが好きでした。私は人類には宝があると思います。それは起きていないけれど眠りにつく前の時です。この特別な時間のことをそれをスペイン語では「duemervela」といいます。「La siesta del cipres」は 「duermevala」の時に聞く音楽なのです。眠っている時私たちは簡単に洞察と記憶と音楽に入っていくことができ、非常にシンプルなメロディーは夢の世界に入って行くことを助けてくれるのです。私は夢の国への扉として「La siesta del cipres」を作りました。

さて、本当に申し上げるのが遅くなってしまいましたが「El Estanque Esmeralda」は、従来のあなたらしい旋律がより研ぎ澄まされ、実験的な試みすらも、詩情豊かに聴かせてくれる本当に素晴らしい作品だと伝えさせてください!

詩情豊かとこのアルバムを評してくれてありがとうございます!私の考えは、私たち、そしてこのインタビューを読んでくださっている皆さんの周り…どこにでも詩があると思っています。詩はクリエイションなのです。

この作品のあなたが寄稿したテキストを読んだり、カセットでリリースされた「Música para Manuel」聴いていると、”時の流れない記憶に”あなたの祖父母との素敵な思い出がたくさんあるんだと感じました。

彼らは私をよりよく生きるように手助けしてくれました。私は、彼らとの思い出とともに生きています。そのことは過去も現在も同じものです。未来さえも。。
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現在、フィールドレコーディングを作品に取り込む手法は多くの音楽家が取り入れています。ただ単に装飾的であったりするものも見かけられますが、あなたの場合は、サウンドの中で豊かなハーモニーあるストーリーを生み出していると思います。あなたとフィールドレコーディングとの関係性についてお答え頂けますか?

日常の音、フィールドレコーディングを使うことが好きですが、あくまで私は、ちいさな物語を思い浮かべ、詩的な作品を作ろうとしているだけです。特別な機械は持っておらず、古いミニディスクかテープ録音をつかっています。

最近は、脱ラップトップの音楽制作が周りで広がっているムードを感じます。「El Estanque Esmeralda」でもラップトップを用いないで作らていますよね?それはどういう理由からですか?

ラップトップはもう興味深い道具ではないと思います。恐らく。。それはたくさんの異なる可能性がありますが、簡単に迷子になってしまう。less is betterなんです。

いつも作品に使われる写真が素敵ですね。いつもあなたがディレクションしているのですか?

自分のアルバムのアートワークには本当に気を付けていますね。幸い私は素晴らしいビジュアルのクリエイターと共同作業をする機会を持っています。「El estanque esmeralda」の写真は私がTubingen、ドイツで撮ったものです。トモヨシ(Tomoyoshi Date)と私はドイツの南にあるTubingenの自然の中でレコーディングをするために行きました。そこは詩人Friedrich Holderlinが人生の半分を過ごした場所です。私たちは旧市街を歩き、そこで偶然に、タンポポを見つけ、写真を撮ったのです。

flauからリリースされたmachinoneの作品「Tokyo」にあなたの名前を見かけました。どういう経緯から参加となったのですか?また彼の音楽の印象については?

flauのマネージャーYasuhiko Fukuzonoから招待されたんです。machinoneの音楽はとても美しいです。私はとてもかすかな音を入れました。Machinoneの音楽が完璧だったからです。私はただ演奏し、彼のメロディーの上に小さな音をミックスさせました。彼の音は暖かく正直です。私にとって楽しい仕事でした。

今後の予定を教えてください。

私は「La estrella dormida」というニューアルバムをChihei HatakeyamaのレーベルWhite Paddy Mountainから、もうすぐリリースします(10月8日発売予定!)。Corey Fullerが日本でプレゼントしてくれたRolandのSpace Echoとカセットテープのループを使っているんです。それからヨーロッパとJapan Tourに作った限定のカセットテープも、CDとテープで再発されます。そして私は小さなお話を書いていて、それは私が集めている大好きな切手に触発されたものなんです。あとTomoyoshiと私はTomoyoshiのスタジオでライブセッションをした新しいMelodiaのアルバムをミックスしている最中です。

最後にこのインタビューに感謝したいのと、日本の友人達、コンサートに来てくれたオーディエンス、日本のツアーで忘れられない思い出をくれたミュージシャンにありがとうを伝えたいです。また皆さんに会える日を願っています!

<あとがき>
Federico Durandの作品は現在、CDにつきましては、ほとんどがレーベル在庫がない状況で、今のご時世、再プレスの見込みもないのが現状です(「El estanque esmeralda」もCDとしては現在入手が難しい状況です。)。ですので、過去の音源は、CDショップの在庫を探すか、デジタルダウンロードでチェックしてみてください。彼のbandcampサイトにてダウンロード購入可能です。もしくはNATURE BLISSのサイトか、全国で頑張っている専門店さんでご購入ください。

また最初に書きました、来日した際のライヴ音源(ソロだけの音源ではないですがスペシャルな組み合わせですよ!)が、Kualauk Tableよりダウンロード販売されております。こういった地道ながら志を持って活動している方を少しでも支えることができれば(あなたの周りにもいませんか?)、また再びフェデリコさんの再来日があるかもしれません…いや、また来てもらいましょう!よろしくお願いいたします。

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2014年09月25日 | Posted in インタビュー | タグ: , , , Comments Closed 

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