Harnes Kretzer「Petrichor」~潤う大地の芳醇な響きに身をゆだねながら

20140702_023220

text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

鉱物学者Isabel Joy BearとR. G. Thomasがネイチャーに発表した論文の中で作られた造語”Petrichor”というタイトルがつけられた、ドイツはニュルンベルクの若き作曲家、Harnes Kretzerのセカンド作が本当に素晴らしい。

まるで、Dustin O’HalloranやGoldmundを思わせるピアノと、Federico Durandのアンビエントが合わさったかのような…という表現が大げさなようで実のところ、本当にそんな感じの作品なのです。

ちょうど、同じ時期にアルゼンチンの音楽家、Ulises Contiの新作にも似た雰囲気があって、どちらも素敵なんですが、Ulisesの方は、アルゼンチンの風土を感じさせるところがある一方、Harnes Kretzerの方は、ヨーロッパ的というか、ほどよい湿り気を含んだ、メランコリアと、ぬくもりが混ざり合ったとても心に染み込むメロディーは、日本人の感性にもスッと馴染みやすいものではないかと思います。

ただ残念なことに、リリース先のFluttery Recordsは日本の流通には乗ってないと思うので、今のところ、Harnes Kretzerは、広く知られてるとは言い難いのですが、彼も含め、Fluttery Recordsは要チェックですよ。

さて、Harnes Kretzerは、1992年生まれの現在22歳という若き音楽家。タンジェリン・ドリーム、そしてクラウス・シュルツに影響を受けながら、ほどなく、サティを始め、ネオクラシカルなアーティストである、 Nils Frahm や Dustin O’Halloranという、日本でいうとポストクラシカルの音楽家たちの後を追うかのように、彼もこのシーンに名乗りを上げようとしています。音源のリリースは2013年から、本人名義の作品を1枚リリース後、この新作や、EPも含め、3枚の作品を、そして、Lucid Sky名義で活動するChristian Penselとの連名でEP「Zurueck」と、ohrenbetäubende stilleという名義で作品を1枚発表しています。ただやはり最新作「Petrichor」は、これまでの作品と比べても一つ頭抜けたクオリティーを放っている。

柔らかなタッチで響くピアノの抒情。そこに、フェンダーローズ、シンセ、エフェクトやフィールドレコーディングを用い、美しくも幻想的なアンビエントを同居させることで、より一層音のゆるやかな波が漂い始め、頭の中に浮遊する無数の記憶の断片が一つ浮かんでは消え、また浮かぶ…ような不思議なこころ持ちにさせてくれる。

時に鮮やかで、時に切なく、気品たたえた、短いけど印象深いピアノと、アンビエント・エレクトロ・ミュージックのオリジネーターに影響を受けた、幻想的なサウンドスケープ。曲によっては、ピアノだけだったり、アンビエントだったり、お互いが共鳴し合ったり、作品のなかでストーリーが展開しているような感じなんですが、なんというか聴かせ方が上手なんですよね。聴き飽きさせないというか…。そんなところもセンスがあるんだな~と感じます。

今手元にあるものは、ハンドメイドのボックスタイプのパッケージ仕様で、作品同様、本当に手の込んだものです。すごい!こういうのって、正直手間とコストを考えたら流通に流れている作品ではまずあり得ないことで、昨今のネットの進歩は、ますます作り手と受け手側が近い関係でやり取りする状況になって来たんだなと感じます。

20140702_020321

純粋に作品を大切に、音源だけでなく届ける形まできっちりと思いがこもっているのはとても大歓迎。たしかに、こういうのってたくさんは到底作れないし、どうしてもスモールビジネスになってしまうけど、ダウンロードだけではなく、作品を手にすることの大切さはぜひ失ってほしくないなぁ~(こういうパッケージを毎回望んでいる…という意味じゃないですよ)。こういうのって理屈じゃないんですよね。ダウンロードはビジネスの側面が強すぎる。お手軽簡単どこでも。もちろん非難はしないし自分だってその恩恵は十分受けている。だからそれはそれで尊重しつつ、上手く共存させながら、作り手も、間に立つ者も、受けても、より実りのあるサイクルが生まれることができれば…なんか脱線しちゃいましたね~えー何が言いたかったんだっけ?

長い間日照りが続いたの後の最初の雨に伴う独特の香り”が、ペトリコールということみたいなのですがまさに、彼の生み出す、サウンドの持つ芳醇な響きは、タイトルの意味通りのもの。今は梅雨の季節にこのレビューを書いていますが、奈良の葛城市は空梅雨なんですよね。一度雨降り時にじっくり聴いてみたいな~。もし終盤10曲目あたりのピアノメインの曲の時に雨がやんで虹でも出てきてくれたら泣いちゃうかも…。とにかくこの作品、ポストクラシカルファンは聴いておかないともったいなすぎますよ!

20140702_020011

2014年07月02日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , , Comments Closed 

関連記事