PASTEL RECORDS

「好奇心とやすらぎの音楽」というキーワードで、エレクトロニカ、フォーク、アコーステックを中心に世界のインディペンデント・ミュージックを紹介しております。

Directorsound「Into the Night Blue」〜まるで忘れ去った素敵なひとときを思い出させてくれる月夜のメロディー。

      2016/06/30

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6月に日本先行で発売(Yaccaより)されることになった、イギリス・ドーセット生まれ、ロンドン在住のマルチ奏者、Nick Palmerのソロプロジェクト、Directorsound(ダイレクターサウンド)の新作「Into the Night Blue」が本当に素晴らしい。

Directorsoundは、2003年に、The Pastelsのスティーヴン・パステルが主宰するレーベル、Geographic Recordsから「Redemptive Strikes」でデビュー。レーベル主催のThe Pastelsばりに、決して上手とは言えない演奏ながらも、それがマイナスではなくDirectorsoundの個性となり、ジャズやワルツ、ラグタイムやジャックタチの映画やモリコーネなどに影響を受けた音楽性と無邪気な遊び心、そして、ロマンチックさが詰まったもので、この作品は、世界中の音楽愛好家達から高い評価を得ます。

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「Redemptive Strikes」デビュー後は、日本のPower Shovel Audioよりデビュー前1999~2003年の宅録音源をまとめた作品集「Tales from the tightrope vol. 1」を発表。また、少数プレスの自主制作に近い形で、数作品を発表したのち、2010年に、スウェーデンのレーベル、Tona Serenadより「Two Years Today」をリリースします。このレーベルは、日本でも紹介されたファースト作「Datum」がロングセラーとなっているスウェーデン人ミュージシャンMusetteと同じレーベルなんですね。この繋がりも、新作「Into the Night Blue」とリンクしたものになっているんですよね。それは後程として…、「Two Years Today」自体も制作スタートは、2003年から、実に足掛け7年にも渡る制作期間を経て作られたものとなっています。マルチ奏者らしく、色とりどり生楽器のアンサンブルに彩られたこの作品は、聴いているとどこか懐かしくも新鮮な、架空のサーカス団?のファンタジーのようでもあるし、南国リゾートムード?でもあるし、ほのかに淡い切なさを感じさせたり、豊かな好奇心を制作期間の7年間コツコツと積み上げ、ファースト作以上に、ファンタジックな音像を聴くことができます。

また、Directorsoundとしての活動と並行し、Nick Palmerは、盟友Plinth名義で知られるMichael Tannerとの活動も活発に行っています(この人も要チェック!)
。特に、2人のコラボユニット、The A. Lordsでは、2011年に伝説の英国アシッドフォークシンガーMark Fryとの共作アルバム「I Lived in Trees」を、UKのSecond Languageからリリースし、往年のファンをも引き込む素晴らしいコラボレーションを聴かせてくれていて、ぜひこの機会に聴いていただくことをオススメいたします。

そんなDirectorsoundの次にリリースした「I Hunt Alone」(2013年作)は、前作「Two Years Today」とは趣の違う内容と成っています。というのもこの作品、ルーマニアはトランシルヴァニア地方のシギショアラへの旅行体験からインスパイアされ作られたもので、シギショアラといえば…吸血鬼・ドラキュラ伯爵のモデル、ヴラド・ツェペシュ生まれた街なんですが、なので、このアルバムの内容も、Directorsoundらしいドリーミーさと共に、東ヨーロッパ民族音楽が結びついた、ミステリアスな箱庭アコーステックシンフォニーを披露しています。

ジャケットも、緑の森の、一見すると美しいものだったりもするんですが、予備知識が入ると、どことなく東ヨーロッパのミステリアスさが入り混じった雰囲気が漂うようでもあります。残念ながらこの作品、国内リリースになることはなかったのですが(まあちょっと日本人好みしにくい内容ではあるのですが)、前作に一部ドラムで参加していた、Ian Halfordと、チェロのChris Cole(Manyfingers)、フルートのJess Sweetman以外は、この作品も、Nick Palmerのマルチぶりが発揮されたものとなっているのですが、前作以上にインストゥルメンタルの手の入れかたが素晴らしくって、彼の完璧主義者っぷりがいよいよ本物となってきた印象を受けた作品でした。

そして「Into the Night Blue」に至るわけですが、録音にあたり、なんとスウェーデンのMusette(ミュゼット)ことヨエル・ダネルのもとを訪れ、彼を含め現地の音楽家と一緒にレコーディングています。そしてレーベルは再びTona Serenad!「Two Years Today」でもサンクスクレジットに、ヨエル・ダネルや、この作品に参加しているサックス奏者、Gustav Rådström名前が入っていたので、このころから交流はあったのだと想像します。これまで、Directorsoundといえば、Nick Palmerのマルチぶりがトレードマークのようでもあったのですが、おそらく、古いジャズやSFの映画音楽、イージーリスニング、エキゾチカ、民族音楽など、同じ嗜好を持ったヨエル・ダネルと出会ったことで、自身の思い描くイメージというものを、より深く理解しあえ、具体的に表現することができるのでは?と考えたのかもしれません。

「Into the Night Blue」では、前述の、ヨエル・ダネル、サックス奏者のGustav Rådström他、ラップスティール奏者Anders af Klintbergが全面で参加、また、"Umbrellas of Beckholmen"では、Phelan Sheppard〜Smile Down Upon UsのKeiron Phelanがフルートで、"Spring with Veronika"と"Summer with Veronika"では、Ian Halfordがドラムで参加しています。レーベルの資料では、”エンリオ・モリコーネ、ビル・エヴァンス、アントニオ・カルロス・ジョビン、マーティン・デニーたちから受けた影響を昇華させて、彼ら全員の共通の好きなもの:トロピカル・ミュージック、クール・ジャズ、ロマンティックなメロディーを融合しようとしていた”とあるのですが、例えば、Musetteの名作「Datum」で聴かれる、北欧の木漏れ日フォーク・アンビエントと、Directorsoundの「Two Years Today」の持つ南国の楽園と、レトロで郷愁を誘う音風景とが見事に相まっていて、本当に得も言えぬ心地よさと、奥深い魅力を持った作品となっています。

真夏の月夜の浜辺を思い浮かべてしまう。美しくも繊細でノスタルジーを運んでくるピアノのさざ波に、情感たっぷりに弾かれるラップスティールのエキゾチックな調べ。冒頭のナンバーから、一気に真夏の夜の夢に紛れ込んだような、不思議な心地よさに襲われる。そこからタンゴのようなリズムに乗せ、マリンバやギター、そしてムーディーなサックスと、ラップスティールが主役の、ラウンジで演奏するジャズバンドがハワイアンを演奏しているようなナンバーが続き、エキゾムードが高まったところへ、乾いたギターから紡ぎ出される、サロンジャズ風の演奏が、さりげなくも心地よいそよ風を運んで来てくれる…とまあ、前半3曲までの流れなんですが、中盤〜後半にかけても、もうとろけるような美しさで、ナイーヴな感性が宿ったメロディー、哀愁を秘めたどこか懐かしいサウンドに、しばしぼんやり浸ってしまいます。ラストはちょっとホロリきちゃいますよ。

ジャズ、ボサノバ、エキゾチカ、モダンクラシカル、映画音楽と、これまでのDirectorsoundの嗜好は変わらず取り込まれたものになっていますが、これまでと異なった懐の深い音楽家との共同作業によって、より深く自己を掘り下げ、Directorsoundとしての、生命力溢れた音楽として聴かせてくれています。まるで忘れ去った素敵なひとときを思い出させてくれる月夜のメロディー。本当に幅広く大推薦したい作品です。6月26日発売予定。

■ Tracklist
1. Once Upon an Ocean
2. Barracuda
3. Orchid Blue
4. Whispers in the Dark
5. Umbrellas of Beckholmen
6. i. Winter with Veronika
ii. Spring with Veronika
iii. Summer with Veronika
iv. Autumn with Veronika
7. Into the Night Blue
8. On a Boat to the Moon

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